月刊『正論』2014年6月号に、慰安婦問題に関して日本政府(外務省)が作成、一旦国連人権委員会に配布しながら取り下げた「幻の反論書」(1996年)の前半部分が掲載された。
解説の西岡力、阿比留瑠比両氏も触れている通り、「特別報告者(クマラスワミ女史)は随所に主観的な誇張を加えている」、「本来依拠すべきでない資料を無批判に採用している点においても不当」などと、事実関係に踏み込んで反論する姿勢を見せた文書である。
歴史問題では「先制降伏」と「逃げの反論」という戦後日本政治の宿痾のうち、「反論」については「逃げ」のみに終わっていない点、評価できる。
しかし、文書の冒頭は次の一文で始まっている。
「旧ユーゴ、ルワンダ等の武力紛争下における組織的強姦、家庭や社会における性的虐待や嫌がらせなど、現代社会において女性に対する暴力は重大な問題になっている。日本政府としても、旧日本軍の関与の下、多くの女性の名誉と尊厳が傷つけられたいわゆる従軍慰安婦問題を深く反省し、官民あげてこの問題に誠実に対応するとともに、この問題を一つの教訓として、『女性に対する暴力』の問題一般の解決のために国際社会に協力していくべきであると考えている」。
これでは、慰安婦問題とは、旧ユーゴやルワンダにおけるエスニック・クレンジング(民族浄化)下の強姦・虐殺と同種のものだった、との誤解を拡散しかねないだろう。長文の文書を配られても、大抵の参加者は、冒頭の半ページ、1ページを越えては読み進まない。
まずは「先制降伏」という姿勢を払拭せねば、日本の外交当局はこうした致命的ミスを犯し続けることになろう。
国基研ろんだん
- 2024.11.18
- 本当の「年収の壁」 本田悦朗(元内閣官房参与)
- 2024.11.14
- インドは途上国の反米化の阻止役 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
- 2024.11.13
- トランプ政権復活を歓迎するインド 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
- 2024.11.11
- 米国の戦前への回帰を警戒せよ 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
- 2024.10.28
- BRICS活用に失敗したプーチン氏 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
- 2024.10.21
- 中国軍の台湾封鎖演習が持つ意味 中川真紀(国基研研究員)
- 2024.10.07
- 日朝連絡事務所は選択肢として排除すべきでない 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
- 2024.10.01
- 「高市氏は靖国参拝を公言して負けた」論に思う 西岡力(麗澤大学特任教授)
- 2024.10.01
- 総裁選で変わらぬメディアの対応 石川弘修(国基研企画委員)
- 2024.09.30
- 世界に広がる印僑ネットワーク 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)