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2014.05.21 (水) 印刷する

実感した情報収集能力と意思の欠如 増元照明(拉致被害者家族会事務局長)

 北朝鮮による拉致被害者家族である私が最も欲しているのは、「今、被害者が北朝鮮のどこに幽閉されているのか。健康状態は?」ということである。
 2003年、家族会は訪米し、アーミテージ国務副長官(当時)と面会した。その際、副長官から「米国として拉致問題解決のために何ができるか」と問われ、「米国の情報収集能力は世界に冠たるものと認識している。是非、被害者に関する情報を収集し、提供してほしい」と要請した。それまでの日本国との関わりの中で、自国の情報収集能力に不備があることを実感し、信用できなかったからである。
 残念ながら、2014年の今に至っても米国から情報はもたらされていない。元CIA東アジア部長アーサー・ブラウン氏と面会した際に聞いた、氏の在職中に本国から拉致被害者に関する情報収集の命令はなかったという驚くべき実態から推測するに、米国は拉致被害者救出に関し、さほどの関心を持ち合わせなかったのだろう。と同時に、我が国から米国に対し、被害者の北朝鮮における生存情報の収集を正式に要請していなかったものと推測される。情報収集能力の高い米国に対して、あるいは北朝鮮情報に関して有力な脱北者を抱える韓国に対して、現在でもなお、日本政府から正式に要請していないのではないか。
 小泉政権時の外務大臣に直接面会した際、「被害者の情報を収集してほしい」という私の要請に対し、その外相は誇らしげに「我が国は、戦後60有余年、情報収集のためにお金をかけたことはない」と言われた。私は計り知れない衝撃を受けた。被害者救出のためには、どうしても被害者が現在置かれている状況を把握しなければならないだろうと信じていた私にとって、我が政府の「被害者を救出するためにあらゆる努力をする」という方針は単なる方便に過ぎないのではないかと感じられたからだ。
 民主党政権から、拉致問題対策本部には12億円を超える情報収集のための予算がつくようになっている。そのスキルを有する職員も存在しているが、発足以来、被害者に関する正確な情報を得られていない事実をどう考えるのか。
 我が国において、国民の生命を保護し守るための情報収集能力が欠如していることは国家としての甚大な欠陥である。拉致被害者救出にとどまらず、国を守るために邪悪な隣国がどのような状況にあるのか、何を考えているのかをいち早く知ることが必要不可欠である。
 永田町あるいは霞が関にいる、我が国を平和にそして安全に導かなければならない方々に、本質的な問題として考えてもらいたい。