公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.05.22 (木) 印刷する

情報戦の王道で克ったレーガンSDI 惠谷治(ジャーナリスト)

 現代の国際情報戦において最大の勝利を収めたのは、SDI(戦略防衛構想)を打ち出したロナルド・レーガン大統領ではなかろうか。
 宇宙空間にミサイル衛星やレーザー衛星を配備し、地上のミサイル迎撃システムと連動させ、飛翔するICBM(大陸間弾道弾)のMIRV(多弾頭)が散開する前に撃破するというSF的なSDI計画を、メディアなどは映画のヒット作になぞらえて「スターウォーズ」計画と呼んだ。
 今から30年ほど前、熾烈な東西冷戦が頂点に達していた1983年3月23日、ソ連を“悪の帝国”と呼んだレーガン大統領は、夜のゴールデンタイムにテレビ演説を行ない、「かつて核兵器を完成させた科学者たちの偉大な才能で、核ミサイルを無力化し、時代遅れにしてもらいたい」と呼びかけ、スターウォーズ計画を推進することを高らかに宣言した。
 当然ながら、自由の国アメリカでは、レーガンが目指すSDIは技術的、あるいは予算的に不可能という論調が溢れ、挙句の果てには俳優出身大統領による映画のなかの夢物語と揶揄された。
 宇宙条約に抵触しかねないSDIに対する疑問や批判が噴出するなかで、レーガン大統領の決意と米国の潜在能力を冷静に受け止めたのが、東側共産主義世界の盟主、ソ連共産党のユーリイ・アンドロポフ書記長であり、後継者のミハイル・ゴルバチョフ書記長だった。
 1985年4月に書記長に就任したゴルバチョフは回顧録で告白しているように、当時のソ連の国力ではSDIに対抗できないことを悟り、米国を凌ぐ強力なソ連の再建を目指してペレストロイカ(改革)を推し進めた。そして、核軍縮交渉という平和攻勢によって時間を稼ぐなかで、INF(中距離核戦力)全廃条約の締結(1987年12月)など一定の成果を上げたものの、SDI計画そのものを放棄させることはできなかった。
 一方、疲弊したソ連を超大国に復活させるためのペレストロイカは、ゴルバチョフの思惑を離れ、共産圏諸国に民主化の風を吹き込んだ。その結果、1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結という予期せぬ結末をもたらした。また、ソ連内部も混乱状態に陥り、遂にはソ連邦崩壊に至らしめたのだった。
 SDI計画はリークされた未確認の軍事情報ではなく、大統領自身が演説で公言するという“王道”によって、予想以上の衝撃を“悪の帝国”に与えた。レーガン演説では「この計画は困難であり、20世紀中には実現できないであろう」とされ、SDIはいわば“絵に描いた餅”に過ぎなかったにもかかわらず、大統領の演説という情報戦によって、ソ連を動揺させることに成功したのである。
 ソ連には「秘密は力なり」という伝統があったが、レーガン大統領はその秘密主義国家に対して、自らの言葉で軍事戦略を公表することによって、東西冷戦の勝者となった。潜在能力のある自由主義国家による情報公開は、秘密主義国家に打ち克つことができるという実例を、レーガン演説は示している。
 SDI計画の核心を受け継いでいるMD(ミサイル防衛)システムは、米国や日本などに配備されている。現在、日本の安全保障政策が大きな転機を迎えようとしているが、日本は科学・IT技術の総力を結集して、「核ミサイルを無力化し、時代遅れにする」という日本独自のMDシステムを完成させるという戦略を打ち立て、レーガン大統領の“王道”に倣い、総理自身の言葉で明確な決意を全世界に示してもらいたい、と切に願う。