国基研ろんだん2014年5月22日付で、惠谷治氏が、ロナルド・レーガン米大統領のSDI(戦略防衛構想)について、「SDI計画はリークされた未確認の軍事情報ではなく、大統領自身が演説で公言するという“王道”によって、予想以上の衝撃を“悪の帝国”に与えた。……潜在能力のある自由主義国家による情報公開は、秘密主義国家に打ち克つことができるという実例を、レーガン演説は示している」と論じている。卓見だと思う。
その関連で、現代史家スティーブン・ヘイワードの『レーガンの時代』第2部から、次の一節を紹介しておきたい(Steven Hayward, The Age of Reagan 1980-1989, p.295)。
〈テッド・ケネディ上院議員をはじめとする民主党側は、「スター・ウォーズ」と呼び習わすことで、この構想をうまく笑いものにできたと考えた。しかし、レーガンの構想を、史上最も人気のある映画シリーズと結びつけてけなす試みが、果たして効果的戦術と言えたか疑問である。もちろん、常識あるアメリカ人は、ルーク・スカイウォーカー(宇宙の暗黒勢力と戦う主人公の一人)やフォース(超常力を与える特殊なエネルギー帯)がファンタジーだと分かっている。と同時に、アメリカ人は大胆なイマジネーションが好きでもある。SDIは、いかなる名称のもとであれ、レーガンがアメリカ一般における議論の前面に引き出して以来、非常に強い世論の支持を受けてきた。〉
実際、テクノロジー大国アメリカが本気で取り組めば、全面的な先制攻撃を加えた上で、少数の残存核ミサイルによる反撃に対処する程度の迎撃システムは構築可能、と当時のソビエト指導部は考えた。実現すれば、戦略環境はアメリカの圧倒的優位へと一変する。そして大統領がケレン味なく公表する以上、「テクノロジー面でのブレイクスルーがあったのではないか、と怖れた」「わが指導部は、アメリカがその偉大な技術的潜在力で再び成果を上げたと確信し、レーガン声明を真の脅威と受け止めた」(アナトリー・ドブルイニン駐米ソ連大使-当時-の回想。Anatoly Dobrynin, In Confidence, p.528)。
ケネディ上院議員ら野党側の「スター・ウォーズ」批判も、期せずして、ソ連指導部の不安感を倍加させる効果を持ったようである。レーガンは「向こう見ずなカウボーイ」だと揶揄したり、レーガンをRaygunと表記する(光線銃の意。なお大統領の名字Reaganの発音は本来「レイガン」に近い)といった米リベラル派の行為にも、本人たちの意図とは別に、同様の対ソ心理効果があったろう。
自国の政権への批判でも、明朗で、祖国の潜在力や名誉を強調するものであれば、国益を損なわず、かえって戦略的なプラスともなり得る。逆に、旧日本軍による少女拉致・性奴隷化を認めない安倍はファシストだといった、祖国を陰湿に貶めるような誹謗中傷は利敵行為以外の何ものでもない。日本の左傾議員も、せめてテッド・ケネディの“夢のあるミス”に学ぶべきだろう。