公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.06.18 (水) 印刷する

正攻法なきロビーが陥る被害回復型詐欺 島田洋一(福井県立大学教授)

 産経新聞2013年7月31日付の「『米の慰安婦像』ロビー活動の差…設置阻止できず」と題する記事は重要論点に触れている。
米ロサンゼルス近郊グレンデール市において、在米韓国人などが、虚偽事実を記した慰安婦像と碑を設置した翌日の記事である。菅官房長官が記者会見で、「政治・外交問題にすべきでないと、市長や市議らに適切な対応を求めてきた」が容れられず「極めて残念」と一般的感想を述べた上、他地域における同種の動きへの対応を問われ、「これまでの取り組みを説明し理解を得る努力をしたい」とのみ答えたという。
 記事は、「韓国系団体は、同市の前市長を韓国に招くなど徹底したロビー活動を仕掛けてきた。これに対し、日本政府は対応を領事館に任せ、『正攻法』で臨んだ面が否めない」「今後は省挙げての対策が迫られている」と結んでいる。
 「省挙げて」どころか「国挙げて」の対応が必要という意味では、記事の指摘は正しい。ただ「ロビー活動」の位置づけについては注意が必要だ。
2006年の米下院「慰安婦日本非難決議」の際、ワシントンの日本大使館は、二つの大手ロビー会社と議会工作に関する契約を結んだと聞く。決議の阻止に向けた「ロビー活動」だったが、結果は、決議を通された上、大金(公費すなわち税金)を失うという、日本国民にとって二重の被害に終わった。
 それらロビー会社は、実際議会の要路に働きかけを行ったであろう。そのことを疑うつもりはない。しかし客観的に見れば、振り込め詐欺や恐喝の被害者が、人権派弁護士を装って近づいてきた詐欺集団の一員に、裁判費用などの名目でさらにカネを取られるという、警察庁が「被害回復型」詐欺と名付けるパターンによく似ているのである。日本はカモとの認識が広がれば、今後、次のようなシーンも現実化しよう。

(ロビイストA)「日本大使館と今回の慰安婦案件で契約を交わした。おたくのボスは目下思案中、追加の働きかけ次第で日本側に付くということにしないか」
(議員スタッフB)「日本が出す『追加費用』は折半、という理解でいいわけだな」
(A)「そうだ。活動費の追加が出るたび山分けといこう」
(B)「分かった。日本大使館から問い合わせがあれば、議員はぎりぎりのところで迷っていると答えておく」

 議員事務所とロビー会社間の「人材の周流」が頻繁なアメリカでは、議会対策上、ロビー活動が有効な反面、上のような「談合」が常に起こりうる。
 日本政府が、歴史問題についてはあくまで「先制降伏」と「逃げの反論」という従来の枠を維持したまま、ロビー活動の予算を増やすなら、まさにワシントンにおいて特大のカモと化そう。
 慰安婦強制連行も性奴隷も虚偽であるという、事実に基づく真の「正攻法」に出ない限り、いかなるロビー活動も徒労、どころか魑魅魍魎うごめく政治ブローカーの世界に国民の税金を吸い取られ続けることになろう。