2014年7月24日(日本時間)、訪米中の河村建夫衆議院議員(自民党選挙対策委員長、元内閣官房長官)が、保守派の有力シンクタンクで日韓関係に関する講演を行った。同日の河村氏のツイッターにこうある。
「ヘリテージ財団(The Heritage Foundation)から招聘を受け、この度の訪米の主要課題である、ワシントンDCで日韓関係について議会関係者やメディアに対して説明する機会をいただきました。日韓関係の改善は、ワシントンでも大変関心の高い問題であり、日米韓の3ヶ国がいかに強固な安保体制を堅持するか、それは3ヶ国の共通利益であることを、改めて強調しました」。
この講演シンポジウムの動画は、同財団の下記サイトで見ることができる。
http://www.heritage.org/events/2014/07/us-japan-south-korea
当然、慰安婦が主要論点の一つとなったが、河村氏の発言は、①日本の歴代首相が繰り返し謝罪の意を表明してきた、②政府と民間が出資して基金を設立し元慰安婦に償い金を提示してきた、の2点のみを挙げる典型的な外務省的「逃げの反論」だった。
「しかし、タンゴは一人で踊れない」が韓国に向けた唯一の軽い異議のようだったが、弱々しい声や表情と同様、日本を代表して不当に貶められた名誉を回復するという覇気や理念がどこにも感じられない内容だった。
河村氏の基調講演に続き、パネリストでヘリテージ財団の朝鮮問題専門家ブルース・クリングナーがコメントしている。目下の東アジアの安全保障についての指摘は的確である。韓国を度々訪ね、政治家と意見交換するが、北朝鮮と日本が同程度に脅威といった世論調査結果や「中国とアメリカのどちらを選ぶか」という声まで聴かれ理解不能だ、「複雑な議論はいい。朝鮮戦争で韓国の側に立ったのは、一体、米中どちらなのか」と、親韓派ながらソウルの現状も厳しく批判していた。
問題は歴史認識である。元CIA分析官のクリングナーは(私も何度も意見交換しているが)、韓国語に堪能な一方、日本語はできない。慰安婦問題に関する彼の知識は、もっぱら韓国発の情報に拠るようだ。従って当然のように、慰安婦を「強制的に性奴隷にされた女性たち(women forced into sexual slavery)と誤って定義し、話を進める。
河村氏から一言、異議があって然るべきだが、ただ話題を避けるごとく言われっぱなしに終始している(質疑応答の後半部分は見ていないが、おそらく河村氏がラスト・スパートを掛け、決然と反論したということはないだろう)。
さて、クリングナーは日本側に対し、次のような「提言」を行っている。①さらに踏み込まぬにせよ、最低限、河野・村山談話の堅持だけは表明すること、②元慰安婦に対し国としての補償を行うこと、③首相は靖国神社に再び行かないと約束すること、④歴史修正主義の政治家たちを明確に批判すること、である。
いずれも、名誉と理念を重んずる日本人なら受け入れがたい話だ。しかし、河村氏からは、やはり一言の反論も出ない。一体、氏の「説明する機会をいただきました」は、ただ外務省からもらったメモを読み、後は黙っていることなのか。
日本に関し、韓国紙や共同通信英語版(特に歴史問題では韓国紙と変わらない)を通じた偏った知識しか持たない、しかし北朝鮮問題などでは強力な同志であるアメリカ人に対して、どのように慰安婦問題や靖国問題を説明するかは、日本の政治家にとって重要課題である。
その意識も覚悟もない人間が、アメリカの、特に保守系シンクタンクの「招聘」を安易に受けるべきではない。
与党にも野党にも少数ながら、慰安婦や靖国さらには拉致問題についてもしっかり踏み込んだ議論のできる議員がいる。そうした人々がワシントンの有力な場に「招聘」されるよう、日本国内外の有志が連携し、戦略的に働きかけていかねばならない。