公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.08.21 (木) 印刷する

前進と後退のワシントン・ポスト社説 島田洋一(福井県立大学教授)

 2014年8月19日付の米紙ワシントン・ポスト電子版が、在米コリアンらが慰安婦碑を公共の敷地内に設置するのを、アメリカの政治家が票目当てに迎合し後押しするのをやめよとの趣旨の社説を載せた。

英国人によるアイルランド人抑圧、トルコのアルメニア人虐殺、14世紀コソボの戦いでのオットマン・トルコによるセルビア人一掃等々についても碑を建てさせるつもりか。それは収拾の着かない混乱を多民族社会アメリカに呼び入れるだろうというわけだ。在米コリアン活動家および連動する朴槿恵政権の羞恥心なき反日歴史攻勢が、米社会に亀裂を入れかねない状況に、普通の感性を持つ米国人が警戒し始めた証拠だろう。それ自体は歓迎したい。

しかし、同社説には次のような記述もある。「その多くが朝鮮人であり日本兵に奉仕するため売春宿に強制的に入れられた、いわゆる慰安婦の苦悶や人権侵害については疑問の余地がない」(There’s no dispute about the anguish and abuse suffered by so-called comfort women, many of them Korean, who were forced into brothels to service Japanese soldiers.)

慰安婦については、「第二次大戦中に、日本によって性奴隷を強いられた女性たち」(women forced into sex slavery by Japan during World War II)と誤って定義している。この筆者は、慰安所の実態について自ら調べたこともないだろう。しかし、「疑問の余地がない」と書いても、どこからも批判は来ないと安心させる言語空間が存在しているわけだ。

ワシントン・ポストの今回の社説は、アメリカにおける中韓の反日活動への牽制という意味では一歩前進だが、不当に傷つけられた日本の名誉回復という意味では、さらなる後退である。「慰安婦=性奴隷」誤認は益々国際的に定着しつつある。われわれは危機感を深めねばならない。