2014年8月5日付で朝日新聞が、同紙の一連の慰安婦報道に、基本用語の「誤用」や虚偽証言の利用があったと32年後にようやく認めつつ、主張の本質は正しかったと開き直る「検証記事」を載せた時、既視感があった。
2002年9月の第一次小泉首相訪朝時、金正日が、それまで一貫して否定してきた拉致を、「特殊機関の一部の妄動主義者らが、英雄主義に走ってかかる行為を行ってきた」と認めつつ、新たな虚偽主張で日本側を欺きに掛かった事例である。朝日と北朝鮮の相似性に改めて驚かざるを得ない。
2014年5月20日、朝日新聞は朝刊一面に「所長命令に違反 原発撤退」と題する記事を掲載、東日本大震災時、福島第一原発の所員の9割が吉田所長の命令に背いて職場放棄したと報じた。
これを、「なぜ朝日新聞は事実を曲げてまで、日本人をおとしめたいのか、私には理解できない」と厳しく批判したジャーナリスト門田隆将氏(産経新聞2014年8月18日付)に対し、朝日が「名誉と信用を傷つけられた」云々の抗議書を出す茶番も見られた。
門田氏とほぼ同じ言葉が、8月22日の国基研企画委員会で櫻井よしこ氏の口からも出た。確かに常識人には理解できない。
ただ、合理的に忖度すればこういうことだろう。
原発の運営に携わっているのは、一旦事故が起こると蜘蛛の子を散らすように逃げてしまう無責任な連中ばかり、だから速やかに全原発を廃炉にしないと危ない……。これが、朝日が新たな誤報による印象操作で伝えたかったメッセージだろう。
慰安婦問題も構造は同じである。
日本人は軍隊を持つと、いわんや海外派兵されると、女性の強制連行・集団レイプに走るような民族、だから速やかに自衛隊を無力化しないと危ない……。あるいは、戦争は人を狂気にする、とりわけ日本人は狂気化・野獣化しやすい、だから速やかに……。
原発や軍事能力を日本から取り除くという「大義」のためには、意図的誤報、すなわち記事の捏造など当然許される。これが朝日の度重なる「報道テロ」を支える倫理感である。
拉致問題を海外の第三者に正しく理解させるには、何のために北朝鮮は拉致を行い、なぜ今も「被害者は13人のみ、5人を除いて全員死亡」という嘘をつき続けるのか、その動機まで踏み込んで説明せねばならない。
朝日が先頭に立って定着させた、きわめて不当な「慰安婦強制連行・性奴隷」認識を正すに当たっても同じことが言えよう。
なぜ朝日という新聞は捏造を繰り返すのか、その独善的で歪んだ倫理観まで踏み込んで説く必要がある。
なお、「20万人の朝鮮人女性を拉致・性奴隷化した日本にわずか10数名の拉致を問題にする資格はない」は、北朝鮮が国際舞台で展開する議論の一つである。朝日の意図的誤報を北朝鮮が対日情報戦の道具に用い、その北の主張を、翻って朝日が日本人に自省を迫る論拠に用いる。朝日と金正日には、相似性のみならず相互補完性や相乗性も見て取れる。そこまで触れれば、より丁寧な説明となろう。