公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.08.19 (火) 印刷する

「性奴隷」概念を稀薄化するな 島田洋一(福井県立大学教授)

 レイプは最も卑劣な犯罪である。女性の性奴隷化など、もちろんいかなる状況でも許されない。それだけに、それら概念を無限定に拡大することで稀薄化させてはならない。いま救うべき真の犠牲者たちに焦点が合わせられにくくなるからだ。

 いま救うべき犠牲者とは、北朝鮮の収容所で看守たちの性的暴行に晒されている女性たちや、「強制送還」で脅され奴隷状態を余儀なくされている中国内の脱北女性などである。彼女らの窮状に目をつぶりながら、ありもしない日本軍慰安婦=性奴隷問題を糾弾する人々の偽善は醜い。

 北の全体主義体制を支え、脱北女性を強制送還している当の習近平中国共産党主席に、こぼれるような笑顔を振りまく一方、安倍首相を架空の性奴隷問題で執拗に追及する朴槿恵韓国大統領は、自らの姿勢を根本から省みるべきだろう(と言っても無駄だろうが)。

 歴史上、間違いなく性奴隷といえる状況がある。アメリカでは、南北戦争(the Civil War)の一要因ともなった。以下、性奴隷問題を考える資料として、ポール・ジョンソンの名著『アメリカ国民の歴史』から一節を引いておく(Paul Johnson, A History of the American People, London 1997)。

 「南北戦争の前段階において、セックスが大きな(語られなかったにせよ)役割を果たしたと感じざるを得ない。男の奴隷所有者は可愛い女性奴隷と寝ており、そもそもそれを念頭に買う場合が多かったと、すべての北部人が知っていた、あるいはそう信じていた。

 エイブラハム・リンカーンは、22才で二度目にニュー・オーリンズを訪れた際、若く美しい10代の黒人の少女が「処女お墨付き」として売られている場面に出会った。淫らな目付きの競売人が「この娘を買った方は儲けもんですよ」と叫んでいた。少女はほとんど裸だった。このゾッとする光景は若いリンカーンに強い印象を残した。

 女性奴隷との密通を南部人は否定したが、(そうした自らの言葉を裏切るように)、執拗に責め立てる北部人に対し、性的な嫉妬はやめろと非難の言葉を返した。実際、それが当てはまるケースもあったようだ」

 性奴隷との誤解が広められた日本軍の慰安婦問題では、ますます国際発信が必要になっている。それゆえ、上記一節の原文も引いておく。アメリカの過去を今さら論難するためではなく、性奴隷概念の明確化のためである。必要に応じ、活用頂ければと思う。

 One cannot help feeling that, in the run-up to the Civil War, sex played a major, if unspoken, part.

 All Northerners knew, or believed, that male slave-owners slept with their pretty female slaves, and often bought them with this in mind.

 Abraham Lincoln, aged twenty-two and on his second visit to New Orleans, saw a young and beautiful teenage black girl, ‘guaranteed a virgin,’ being sold, the leering auctioneer declaring: ‘The gentleman who buys her will get good value for his money.’ The girl was virtually naked, and the horrific scene made a deep impression on the young man.

 Southerners denied they fornicated with their female slaves, but they also (contradicting themselves) accused their Northern tormentors of sexual envy, which may have been true in some cases.……