韓国の朴槿恵大統領が、安倍晋三首相との会談を、「日本政府の歴史観が間違っている」、とりわけ慰安婦問題で日本側が「誠意」を見せない云々を理由に頑なに拒み続けている。
この姿勢を、単なる事実認識の誤り、大統領自身も反日教育を受けた世代であること、歴史カードを振りかざせば日本は折れるという経験則の機械的適用、ポピュリズム(大衆迎合主義)等々で説明し切れるか。
さらなる「戦略的」理由がある、と日本経済新聞編集委員の鈴置高史氏は言う。氏の近著『日本と韓国は「米中代理戦争」を戦う』から引いておく。
「米国は中国を包囲するために日米韓の三国軍事協力の強化を進めています。一方、中国は韓国に加わるなと命じています。米中の間で板挟みになった韓国は『日本の右傾化が原因で日韓関係が悪化した』との理由を掲げ、三国軍事協力から逃げ回っています。『最悪の日韓関係』を示すためにも朴槿恵大統領は、日本の首相に絶対会うわけにはいかないのです」
朴槿恵氏が安倍忌避を続ける主因は、この「恐中」にあるというのが鈴置氏の解釈である。
安倍政権による、集団的自衛権の行使に道を開く憲法解釈変更を、ワシントンがほぼ一様に歓迎したのに対し、韓国政府が、中国共産党政権と歩調を合わせて批判に回った理由も、鈴置氏の説明は明快である。
「(韓国は日米同盟を弱体化させたいのか、との質問に)その通りです。日米同盟が強化されれば米中の対立が深まると韓国人は信じている。そうなると二股外交の韓国は米中双方から『どっち側に付くのだ』とさらに迫られるからです」
鈴置説については、韓国人をバカにし過ぎといった評もあるが、少なくとも朴槿恵周辺の心的傾向は鋭く突いているのではないか。
つまり、慰安婦問題で韓国の言い分を全面的に受け入れるのみならず、安全保障問題でも中国の意向に大きく配慮して戦後レジーム維持を指向する、例えば鳩山由紀夫、古賀誠、加藤紘一、河野洋平といった人々が日本の首相の座にあり続けない限り、朴槿恵的な韓国の指導者は、安心して日本との友好関係に入れないということだ。
河野談話(1993年)の頃と違い、このように、現在は韓国政府の側に、対内的にも対外的にも、慰安婦問題で「落とし所」を探る動機がない。従って、安倍首相に限らず日本のリーダーが、国の名誉と安全に責任を持つ存在である限り、韓国の現政権との友好関係は不可能と見切らねばならない。
韓国側がいくら非難のトーンを高めようが、淡々と事実を発信すればよい。その意味では、対韓政策は楽になった。