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2014.09.25 (木) 印刷する

外務省OBの米中「鷹揚」、日本「偏狭」論 島田洋一(福井県立大学教授)

 外務省OBの宮家邦彦氏による産経新聞連載コラム「宮家邦彦のワールド・ウォッチ」9月25日付を斜め読みしていて、「これはいつにも増してひどいのではないか」と呆れる感覚があった。
 「国基研ろんだん」で取り上げることも視野に、改めて熟読したところ、中国共産党の御用学者も恥じ入りかねない内容である。外務省内「保守派」を自任し、安倍首相に近いとされる人物にしてこの程度という実態を、われわれは日本外交を考える際、常に意識しておく必要がある。
 さて、「中華『合衆国』という視点」と題されたコラムで宮家氏は、まず「宮家さん、中華とは場所ですよ。……一度中華の一部になれば、もう出身地には戻れないし、そもそも戻りたくありません。中華はその内側が素晴らしいのであって、外側はゴミだからです」という、「中国の非漢族の友人」が語ったという言葉を肯定的に引用する。
 氏がこれを書く際、かたわらの新聞には、中国在住のウイグル族学者、イリハム・トフティ氏に「国家分裂罪」で無期懲役という活字が踊っていたはずだが、そうした中、この種の言葉を疑問なく連ねうる神経には驚くしかない。
 宥和派のジョン・ケリー米国務長官ですら、「平和的な異議申し立ては犯罪ではない」、こうした「裁判」は「緊張状態を悪化させる」と釈放を求める中共批判のコメントを出している。宮家氏は、一体どこの「ワールド」の何を「ウォッチ」しているのだろうか。
 氏はさらに、中国は「アメリカ合衆国」に似た、「中華合衆国」だとの感慨を述べ、氏が出会った「中国人たちには、スコットランド人のような偏狭な民族意識はなさそうだ」との観察を記す。
 なお続けて、「米国と中国は、どちらも『寛容な人種の坩堝(るつぼ)』という点で、意外に似ている」とし、「こうした寛容さ・鷹揚さに比べれば、スコットランド民族の厳格さ、偏狭さは際立っている。当然ながら、日本は米中よりも、スコットランドに近いだろう」と、なぜか「鷹揚」な米中対「偏狭」な日本という根拠薄弱な文明論に話を飛躍させる(さすがに「日本は外側のゴミ」とまでは言わないが)。
 基本的自由と民主制が一応保障された現代アメリカおよび日本と、共産党一党独裁下の中国をまず対置して国際政治を把握するのが常識だが(だから、日米は中国をにらんだ安全保障条約を維持している)、宮家氏には政治体制の重要さ、ひいては自由の重要さが目に入らないのだろう。この辺りの心的傾向は、孫崎亨、天木直人といった他の外務省OBにも共通する。
 アメリカと中共のエスタブリッシュメント(既存エリート層)同士が野合する場面は、過去にもあったし、これからもあるだろう。米側では、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(共和党)、ロバート・ルービン元財務長官(民主党)などが最大のブローカーであった。
 しかし彼らを動かす主要因は、何よりも経済的利権であり、理念を捨象した「勢力均衡」「デタント(緊張緩和)」概念であった。米中の動きを見る際、最も重要なのは、怪しげな文明論ではなく、政治経済に関する冷徹な構造分析だろう。