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2014.12.04 (木) 印刷する

NYタイムズ「植村隆インタビュー」と朝日の歪曲 島田洋一(福井県立大学教授)

 ニューヨーク・タイムズが、2014年12月2日、朝日新聞の植村隆・元記者のインタビュー発言を好意的に引きつつ、「戦争を書き直し、日本の右派が新聞を攻撃する」(Rewriting the War, Japanese Right Attacks a Newspaper)と題する記事を載せた(マーティン・ファクラー記者。表題はネット版のもので、紙版は若干異なる)。

植村氏は、朝日新聞の慰安婦問題における一連の意図的誤報の嚆矢となった1991年8月11日記事で「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存していることが分かり…」と書いた人物である。

ここで取り上げられた金学順さんは、裁判の訴状でも自身の経歴を、キーセン学校に通った後養父に連れられて中国に渡った、と述べており、植村氏の記述は明らかな捏造であった。

ところが、朝日新聞は、2014年8月5日、6日に掲載した自社の慰安婦誤報検証記事でも、植村記事は取り消し対象としていない。

朝日は同じ5日付紙面に、「編集担当・杉浦信之」名で、「慰安婦問題の本質直視を」と題する声明文を掲げ、その中で「戦時中、日本軍兵士らの性の相手を強いられた女性がいた事実を消すことはできません。慰安婦として自由を奪われ、女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです」とし、日本の名誉を貶める報道を今後も続ける姿勢を明確にした。

植村記事についても、「元慰安婦の記事を書いた元朝日新聞記者が名指しで中傷される事態になっています」と、事実に基づく批判を「中傷」と一蹴している。これら諸点について、西岡力東京基督教大学教授は次のように指摘する。

植村記者の慰安婦報道は、事実を捏造して自分の身内の裁判に有利になる記事を書いたものだ。私はこのことを22年間告発してきたが、朝日の検証はその批判にまともに答えていない。……朝日は吉田清治証言を報じた過去の16本の記事を『虚偽だと判断し』取り消した。その取り消し方も中途半端で責任逃れが目立つことは後述するが、吉田証言は外部の人間の話のウソを見抜けなかったというものだ。それに比べて植村記事は、まさに朝日新聞内部の人間が編集幹部の指導の下で報じたものだ。その捏造を認めると朝日に計り知れない打撃を与えるはずだ。ある意味、検証の本当の目的は、植村記事は捏造ではないという主張をすることだったのかも知れない

その植村氏は日本のメディアの取材は拒否しつつ、今回、ニューヨーク・タイムズのインタビューには積極的に応じた。同紙記事から引いておく。

『彼ら(自分や朝日を批判する右派―島田注)は歴史を否定する手法として脅迫を用いています』。自らを擁護するための相当量の文書を携えてインタビューに現れた植村氏は、切羽詰まった訴えを声に込めて言った。『彼らはわれわれを威嚇して黙らせようとしています』

“They are using intimidation as a way to deny history,” said Mr. Uemura, who spoke with a pleading urgency and came to an interview in this northern city with stacks of papers to defend himself. “They want to bully us into silence.”

ニューヨーク・タイムズの同記事では、「日本軍が朝鮮において直接女性を拉致したり直接罠にはめたりした証拠はほとんどない」「(朝日による吉田証言の)正式な撤回にはあまりに時間が掛かった」といった記述はあるものの、「戦時中、日本軍が何万人もの朝鮮人やその他の外国人女性に性奴隷状態を強制したという今や国際的に受け入れられた見方」といった基本的誤認の方が強調されている。

金正日は、小泉第一次訪朝の際、日本人拉致を認めつつ、被害者は13人のみ、生存者は5人のみ、自らは知らなかったという新たな、そして戦略的に歪曲を含ませた虚偽説明を行った。その虚偽を指摘されると、「日本の右翼による政治的策動」と逆非難を行った。朝日の姿勢も同様である。

ニューヨーク・タイムズの記事は、こうした朝日の「新たな」歪曲姿勢をほぼ忠実に反映しており、朝日による日本の名誉毀損行為が現在進行形であることを示している。

植村氏に関して言えば、外紙のインタビューに「被害者」として応えるのは自由だが、その前に、まず日本語で日本国民に説明責任を果たすべきだろう。例えば、なぜ西岡力氏との対談に応じないのか。ジャーナリストとして、また人としての責任感覚の歪みを指摘されても仕方ないだろう。