朝日新聞の記事を信じないことが、日本人にとっては知的成熟の証と言える。アメリカ人にとっては、ニューヨーク・タイムズを信じないことがそれに当たる。
両者は、左傾イデオロギーに基づく事実の歪曲に加え、高みに立った説教や偽善、無反省という点でも共通性を有する。
2014年12月4日付の本「ろんだん」に「NYタイムズ『植村隆インタビュー』と朝日の歪曲」と題する一文を寄稿した。
植村氏は慰安婦問題での一連の意図的誤報を問われる朝日新聞記者で、現在は大学の非常勤講師などを務めている。
ニューヨーク・タイムズは、同氏へのインタビューをもとに、
「超国家主義者たちは、インターネットに、娘を自殺に追い込もうなどと呼びかけるメッセージを掲げ、彼の子どもたちまで追い回している。こうした脅迫は、日本の保守派が憎むことを好んできた朝日新聞に対する、日本の右翼ニュース・メディアや政治家による、広く激越な攻撃の一貫である」
Ultranationalists have even gone after his children, posting Internet messages urging people to drive his teenage daughter to suicide. The threats are part of a broad, vitriolic assault by the right-wing news media and politicians here on The Asahi, which has long been the newspaper that Japanese conservatives love to hate.
と穏やかならぬことを書いた。
もちろん、家族への脅迫などあってはならぬことである。
では、日本の「保守派」をあたかも脅迫の教唆者のごとく記述するニューヨーク・タイムズの報道姿勢はどうか。一例を挙げておこう。
米国では、今年8月ミズーリ州で起きた(アメリカの主流派=左傾メディアや政治家の図式的かつ扇情的性格づけによれば)「白人警官による黒人青年射殺」事件と大陪審の不起訴決定をめぐって論議が続いている。この件についても、先に「ろんだん」11月27日付で、メディアにあまり載らない背景を取り上げた。
取材合戦が過熱する中で、ニューヨーク・タイムズ電子版が、個人情報が記載された白人警官の結婚証明書の写真を掲載し、身辺を危険にさらしたとして問題になった。
批判を受けて、ニューヨーク・タイムズは、証明書の写真を削除したものの、警官の妻のフル・ネームや住居の町名ストリート名は、いまだに記載し続けている。ストリート名が分かれば待ち伏せは可能である。司法が裁かぬなら自分たちの手で決着を付けるなどと宣言する過激な勢力もいる中で、この個人情報開示は人権に配慮したものと言えるのか。テロを教唆するに近いのではないか。
ニューヨーク・タイムズは、①夫妻が住むストリート名はワシントン・ポストの方が先に掲載した、②警官夫妻はすでに転居したはず、③写真上に番地まで明示された住所は手続きに当たった法律事務所のもの、などと弁明に務めるが、同紙エディターも「後から考えれば、あのような不穏な状況で、ストリート名とは言え、報じたことはおそらく賢明ではなかった」(With the benefit of hindsight, even publishing the street name may have been unwise in such an emotionally fraught situation.)と不明を認めている。
他紙との比較はどうあれ、ニューヨーク・タイムズも、率先、問題報道をしたことは間違いない。高みから日本の保守派の人権感覚を批判する前に、まず自らの姿勢を正視すべきだろう。