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2015.01.05 (月) 印刷する

駐ロス総領事の「逃げの反論」とジャパンハウス 島田洋一(福井県立大学教授)

 産経新聞2014年12月29日付に「米紙社説に駐ロサンゼルス総領事が反論 慰安婦像設置に『姉妹都市関係破壊する』」と題する記事が載った(中村将記者)。まず、そこから引いておく。

慰安婦問題をめぐり、米紙ロサンゼルス・タイムズが今月11日付社説で「日本のナショナリストが慰安婦に関して、歴史を修正しようとしている」と報じ、これに対して堀之内秀久駐ロサンゼルス総領事が同紙への反論文を投稿した。

反論文は24日付の同紙に掲載された。堀之内総領事は「日本政府が歴史を否定したり、軽視しているとする考え方は誤解である」とし、「慰安婦問題について安倍晋三政権は1993年の河野(洋平官房長官)談話を支持することを今年6月20日に表明し、政府の見解は今もそれと変わっていない」と説明した。

その上で、「さまざまな出身やルーツを持つ人種が共存するカリフォルニア州で、慰安婦像を設置することには強く反対する。地域社会への不必要な恨みと摩擦をもたらし、姉妹都市関係を破壊する」などと主張した。
2014年12月29日付 産経新聞
「米紙社説に駐ロサンゼルス総領事が反論
慰安婦像設置に『姉妹都市関係破壊する』」

これは、総領事の「反論」投稿(表題 Japan is honest on history and 'comfort women')の正確な要約と言える。要するに、外務省従来の「逃げの反論」を出ていない。

例えば、タイムズ紙社説は冒頭、慰安婦を定義して、「日本軍に特殊な性奴隷システムで、女性たち(ほとんどコリアン)は日本兵に性を提供するため誘拐ないしその他の方法で徴用された」〈the Japanese military's peculiar system of sexual slavery, in which women (mostly Korean) were kidnapped or otherwise conscripted to provide sex for Japanese troops〉と著しく誤った認識を示しているが、堀之内総領事の「反論」はその点をまったく正そうとしていない。すなわち認めたも同然であり、著しい職務怠慢という他ない。

また同社説は、日本政府が、いわゆるクマラスワミ報告の吉田清治証言に触れた箇所を修正するようクマラスワミ氏本人に申し入れた(他ならぬ外務省の佐藤地(くに)女性人権人道担当大使が行った)ことを「グロテスクな試み」と非難しているが、総領事はそれにも反論していない。

社説には、他にもおかしな部分が多々ある。が、以上を見るだけでも、外務省には、慰安婦問題での国際的な誹謗中傷に、ファクトを掲げて立ち向かう気構えなどないことは明らかだ。この期に及んでも、ないわけである。

産経新聞2015年1月1日付連載コラムで、外務省OBの宮家邦彦氏が、来年度の概算要求で外務省は戦略的対外発信費約500億円を新規要求したそうだ。ゴヒャクオクと聞いて一瞬耳を疑った。そいつはすごい。……どうやら安倍内閣は本気で対外発信強化を考えているらしく、実に心強い500億円の新規予算が認められ、世界各地に『ジャパンハウス』なる日本関連情報発信の本格的拠点ができれば……と書いている。

宮家氏のイメージでは、「ジャパンハウス」とは例えば「中国の若者が集まるネットカフェのような憩いの場」ということらしい。

安倍首相は本気で対外発信強化を考えているだろう。しかし、その所管を外務省とする限り、なすべき発信はなされず、国民の税金が浪費されるだけに終わるのは間違いない。