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2015.01.16 (金) 印刷する

朝日「92年1月プロパガンダ」と政治家・外務省の責任 島田洋一(福井県立大学教授)

 1992年1月11日、数日後に迫った宮沢喜一首相の韓国訪問を睨み、朝日新聞は、慰安婦の強制連行に関し決定的な新資料が発見されたかの如き一大キャンペーン記事を載せた。ナチスの宣伝相ゲッペルスを彷彿とさせる政治プロパガンダであった。

吉見義明中央大教授が朝日新聞記者に渡した防衛庁所蔵資料に、強制連行を示す中身はなく、朝日もそのことは認識していた。

従って、記事本文には強制連行とは書かず(書けず)、一方、煽情的な見出しや「用語説明メモ」を動員して、いかにも挺身隊の名で韓国人少女を強制連行した決定的証拠が出てきたかのような紙面作りに腐心したわけである。
 
逆に記事本文にも「強制連行」とあれば、思い込みないし誤報という評価も成り立つが(千歩譲ってだが)、まさに確信犯的なプロパガンダであった。

2014年12月22日に発表された、朝日新聞「第三者委員会」の報告書も、この1992年1月11日付記事については、首相訪韓の時期を意識し、慰安婦問題が政治課題となるよう企図して記事としたことは明らかと認定し、このスクープ記事は、韓国世論を真相究明、謝罪、賠償という方向に一挙に向かわせる効果をもった(波多野澄雄委員)、韓国における過激な慰安婦問題批判に弾みをつけ、さらに過激化させた(北岡伸一、岡本行夫委員)と強く批判している。

このキャンペーン記事が、韓国のみならず、アメリカのメディアにおける慰安婦報道を大きく歪曲させる効果を持ったことも間違いない。

この点は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ3紙の記事を具体的に引きつつ、朝日慰安婦報道「独立検証委員会」(中西輝政委員長。筆者もメンバー)が本年1月末に発表予定の報告書で、詳しく検証する予定である。
 
なお、慰安婦問題混迷の責任を朝日だけに帰するわけにはいかない。「92年1月プロパガンダ」にうろたえ、まず謝罪ありきの行動に走ったのが、当時の宮沢首相官邸と外務省であった。朝日の責任追及は、その意味で、あくまで第一歩である。