公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.04.09 (木) 印刷する

安倍「人身売買」発言と中韓の反応 島田洋一(福井県立大学教授)

 米紙ワシントン・ポスト電子版2015年3月26日付の安倍首相インタビュー「全文版」(full interview)によると、慰安婦問題に関し首相が次のように語ったとなっている。まず原文を掲げておく。

《On the question of comfort women, when my thought goes to these people, who have been victimized by human trafficking and gone through immeasurable pain and suffering beyond description, my heart aches. And on this point, my thought has not changed at all from previous prime ministers. Hitherto in history, many wars have been waged. In this context, women’s human rights were violated. My hope is that the 21st century will be the first century where there will be no violation of human rights, and to that end, Japan would like to do our outmost.》

 このうち、慰安婦は「ヒューマン・トラフィキング(human trafficking)の犠牲になった」とした部分が、日本と中韓で、ほぼ正反対の意味で物議を醸した。
 首相は3月30日午前の衆院予算委員会で次のように答弁している。読売新聞電子版の同日付記事から引いておく。

《安倍首相は……26日に行った米紙ワシントン・ポストのインタビューの中で、いわゆる従軍慰安婦問題について「人身売買」との日本語を使ったことに関し、「様々な議論が出されているが、人身売買についての議論も指摘されてきたのは事実だ。その観点から人身売買という言葉を使った」と説明した。インタビューでは、英語で「human trafficking」と訳された。欧米などのメディアで、首相を「歴史修正主義者」などとレッテルを貼る向きもあり、こうした誤解を払拭する狙いがあるとみられる。》

 ヒューマン・トラフィキングには、強制連行のような暴力行為も含むと解釈しうる。首相の周りを固める外務官僚らには、読売の解説通りの意図があったのだろう。
 ところが、中韓は逆の意味で反発した。韓国の反応について産経新聞久保田るり子記者の記事(4月8日付)から引いておく。

《安倍首相はさきごろ日韓間で最もしこっている慰安婦問題について、米紙の取材に「慰安婦問題は人身売買」と語った。米国務省も3月はじめ慰安婦問題について見解を表明し、「性的目的の売買」と表現し「人身売買」であったとの認識を明示した。安倍氏の米紙発言は米国の認識と一致しており、米国務省は韓国紙に「安倍氏が初めて人身売買と発言したことは、それなりに誠意を示したものとみる」と評価している。これに韓国は不満だ。慰安婦を「セックススレーブ(性奴隷)」としたい韓国からすると、日米の認識の一致がまた韓国の神経を刺激したようだ。韓国メディアは「性奴隷の本質をぼかす発言」と安倍氏発言に反発し、苛立っている。》

 平仄を合わせるように、中国の国営メディアも同様の批判報道をした。人民日報系の国際情報誌Global Times(環球時報英語版)は新華社電として次のように書いている(3月31日付)。

《安倍にとってヒューマン・トラフィッキングという言葉を用いた唯一の目的は、実際に民間の人身売買業者がいたという事実を利用して、この残虐行為の全過程から政府の責任を振るい落とそうとすることだった。》
(以下原文、 For Abe, the only purpose of using the term "human trafficking" is to try and shake off the government's responsibility for the whole atrocious process, taking advantage of the fact that there indeed were private human traffickers…)

 中韓が「安倍の真意」批判のトーンを上げれば上げるほど、首相発言の日本にとっての危うさが希釈され、正統な解釈が定着していくという逆説的状況がこの場合あるようだ。
 今後外交当局は、中韓に出来るだけ、上述の枠組みで騒がせるよう水面下の「工作」に力を傾けるべきだろう。