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2015.09.07 (月) 印刷する

米の同姓カップル結婚証明拒否、収監問題 島田洋一(福井県立大学教授)

 この「ろんだん」に掲載した8月31日付の「米保守派の意見とアメリカの深層」で次のように書いておいた。
https://jinf.jp/feedback/archives/16906

 《6月26日、米最高裁が、同性婚を新たに憲法上の権利と認め、すべての州に認定を義務づける判決を下した。9人の判事中、5人が賛成、4人が反対の1票差であった。寛容が不寛容に勝利、という図式で報じるメディアが多かったが、もちろん事はさほど単純ではない。……同日、声明を出したマイク・リー上院議員(共和)は、「今や焦点は、重大な良心の権利をいかに守るかにある。結婚とは一人の男性と一人の女性の結合だと信じる人々が連邦政府に不当に扱われてはならない」と主張する。つまり、同性愛者への寛容を錦の御旗として、世俗原理主義者たちが伝統的保守派を圧迫するのを許してはならない、寛容は双方向でなければならないということだ。》

 9月3日、同性カップルが求めた結婚許可証の発行を、自身の信仰を理由に拒否していた米ケンタッキー州ローワン郡のキム・デービス書記官(女性)が有罪判決を受けて収監され、「4日、ようやく発行されるようになりました」とNHKニュースが伝えた。
 が、米保守派が最重視するポイントを、NHKを含め日本のメディアは伝えていない(ざっとネット検索した限り)。
 ケンタッキーの州法は、結婚証明書に郡役所の担当書記官が署名すべき旨を定めている。デービス書記官は、あくまで同姓婚を認める書類に「自分の名前が載ること」を拒否したのであり、無署名ないし自治体名での発行には異存がないと述べている。一方、批判派の活動家らは、あくまで彼女に署名させよと求める。
 非寛容なのは一体どちらなのか、というのが多くの保守派の問いである。
 リベラル派のワシントン・ポスト紙も、例えば多くの航空会社はイスラム教徒のフライト・アテンダントに酒類のサービスの免除を認めており、結婚証明書でも同様の対応が可能なはず、収監は行き過ぎとするユージン・ボロックUCLA大学講師のコメントを載せている。
 保守派イコールごりごりの非寛容、と印象づけたがる日米リベラル・メディアの報道には常に警戒せねばならない。下に関連記事を引いておく。

 《NHK 2015年9月5日
 米 拒否の担当者収監し同性婚許可書発行
 アメリカ南部、ケンタッキー州で自治体の担当者が、宗教上の信条を理由に同性愛者のカップルに婚姻許可書の発行を拒み続け、裁判所が発行を命令しても従わなかった問題で、裁判所はこの担当者を法廷侮辱罪で収監し、4日、ようやく発行されるようになりました。
 この問題は、アメリカ南部ケンタッキー州、ローワン郡で婚姻許可書を発行する権限を持つ書記官の女性が、宗教上の信条を理由に同性愛者のカップルに対して、発行を拒み続けてきたものです。
 アメリカではことし6月から、すべての州で同性婚が認められていて、女性の対応は違法だとする同性愛者たちの訴えを受けた裁判所は、この女性に対し許可書を発行するよう命じていました。
 しかし、女性は「私の道義心に反する」などと主張し、裁判所の命令を無視して発行を拒否し続けたことから、裁判所は女性を法廷侮辱罪で収監しました。4日朝に改めて郡の庁舎を訪れたカップルたちに対し許可書が発行されるようになり、中にはこれまで5回の申請を拒否され続けたカップルもいて、許可書を受け取ると抱き合うなどして喜んでいました。
 この問題を巡っては、同性婚に否定的な共和党の大統領候補が女性の行動を支持すると表明するなど、宗教上の信条を優先する考えに理解を示す声があり、今後も各地で議論が続きそうです。》