富坂企画委員は、「中国に対して歴史戦を仕掛けるべく政府がそうした組織を立ち上げるべき」という西岡の主張に対して「①国際社会の場で宣伝戦を戦う日本人の能力に単純に不安を覚える、②いまそれを優先的に仕掛ける必要があるのか」という二つの疑問点を挙げて反対された。
まず、私は韓国北朝鮮問題の専門家で、その立場からいわゆる歴史戦について発言してきた。より具体的に言うと慰安婦問題が私の主要「戦場」だった。だから、富坂氏が言及している私の「直言」でも中国共産党が慰安婦をめぐる事実無根の日本批判に加わってきたことを問題にした。そのことを前提にして富坂氏の二つの疑問点に対する私の考えを書きたい。
①についてだが、富坂氏は私の慰安婦問題に関する研究と活動に敬意を表してくださっている。私は1991年以来、慰安婦問題での論争に加わってきた。安倍晋三現総理大臣や櫻井よしこ本研究所理事長らも古くからの同志だ。その結果、2年前、難攻不落とも見えたあの朝日新聞が一部記事を訂正し、社長が謝罪した。それを受けてついに今年2月、日本政府を代表して外務省審議官が国連人権理事会の場で、性奴隷20万人説は虚偽だと反論した。まだまだ不十分だが、志を持つ者が少数でも継続して研究と活動を続ければ「国際社会の宣伝戦」で十分戦うことができる。日本に欠けているのは能力ではなく意思だと、私は考えている。
②についてだが、国際社会では反論しなければ認めたことになる。誤解なきように書いておくが、わたしが考える日本がなすべきことは、中国政府と中国人の歴史認識を変えることではない。彼らと我々は国も民族も歴史も異なるのだから、歴史認識の一致は絶対に成り立たない。目指すは不一致で一致すること、つまり、お互いが違う認識を持っていることを認め合い、内政干渉しないことだ。ところが、中国は江沢民時代から国策として国際社会に対して事実無根のプロパガンダを組織的に行っている。慰安婦問題でも米国やオーストラリアでの反日運動をよく観察すると表面には韓国人が立っているが、後ろで中国人組織が支援、共闘している。相互内政不干渉に持ち込むためにも、まず日本側で特に政府が自己主張をすべきなのだ。外務省はそれをする意思も能力もないから、そのための組織を作れというのが私の主張だ。
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