当初、「三本の矢」を掲げたアベノミクスは、もはや金融緩和政策の戦術論に変質しているといっても過言ではない。量的・質的金融緩和(QQE)政策は、消費者物価2%増(対前年比)を2年以内に達成、マネタリーベースは2年間で2倍、を目標としたが、達成されたのは後者だけで、明らかに機能不全といえる。
岩田規久男日銀副総裁は、「予想インフレ率が上昇するのは、マネタリーベースの量を大幅に増やし続ければ、将来、銀行の貸出等が増え始め、その結果、世の中に多くの貨幣(貨幣とは現金と預金の合計です)が出回るようになる、と市場参加者が予想するようになるためです。将来、貨幣が増えれば、その貨幣の一部が物やサービスの購入に向けられるため、インフレ率は上昇するだろう、と予想されるわけです。」(『「量的・質的金融緩和」の目的とその達成のメカニズム』中央大学経済研究所創立50周年記念公開講演会、2013年10月18日日本銀行)とQQEの理論的根拠を説明している。一般物価水準を決めるのは、あくまでマネーの量とする「貨幣数量説」の立場である。
しかし、現実は全く異なっており、マイナス金利でも消費者の予想インフレ率は既に異次元緩和前の水準に落ちており、日銀の金融政策の根幹を揺るがす事態に至っている。
さらに、驚くことに、黒田東彦日銀総裁は2016年2月23日午前の衆院財務金融委員会で、QQEの波及経路は、「主として実質金利を低下させるということを通じて、企業や家計の経済活動を刺激して、企業収益の改善あるいは雇用、賃金の増加を伴いながら物価上昇率が高まっていくという景気の好循環をつくり出すことを目的としている。…(中略)…マネタリーベースの増加が直接的に期待インフレ率を押し上げるものではない」と当初の主張を巧みに変えて陳述している。
では、QQE政策がどのような経路で期待インフレ率の上昇を引き起こすのか。日銀は9月20、21日に開く次回の金融政策決定会合で、これまで実施してきた政策の「総括的な検証」を行うとしているが、金融政策の戦術論ではなく、経済の長期停滞の原因を精査し、金融政策の果たす役割について明確に説明すべきである。
日本の実質経済成長率が低いのは、潜在成長率の低さが原因である。金融政策も財政政策も需要サイドの政策であり潜在成長率を上げることはできない。今後の金融政策は、供給サイドに働きかけて潜在成長率を引き上げるための構造改革を支える政策として位置付けるべきである。政府は、一日も早く第3の矢の成長戦略に軸足を移し、「異次元の構造改革」の実現を図る必要がある。
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