9月9日、北朝鮮が5回目の核実験を行った。金正恩政権になって3回目であり、今年だけでも1月に続き2回目だ。
筆者は、金正恩が5月の労働党大会に合わせて核実験を行う準備をしたが、中国共産党の強い反対を受け、延期したという以下のような情報を入手している。
「米国を協議に引き出すため、(北朝鮮は)もう1回、核実験をやろうとしたが、中国が核実験をこれ以上1回でもすれば、北朝鮮を米国が攻撃しても、北朝鮮が崩壊しても一切中国は介入せず放置すると警告した。中国は、北朝鮮の核武装は我が国(中国)の国益に反する、北朝鮮が核武装すればかならず韓国と日本が核を持つ、日本とは領土問題があるので、日本が核を持って中国と同じところに立つと領土問題が解決できなくなる、と伝えてきた。北朝鮮軍が分析したところ、中国が対北貿易を止めれば小麦粉、食用油、服、軍服、軍靴が止まり、軍を維持することが困難になる」
今回の核実験強行で中朝関係はかつてないほど悪化するだろう。それを覚悟の上で金正恩は実験を行った。今回の実験は1月の実験に比べて爆発エネルギーが約2倍、TNT火薬換算で10キロトン程度だと韓国政府は分析している。
軍事ジャーナリスト、恵谷治氏の分析によると、1月の核実験は失敗だった。とすると、そのときクリアできなかった技術的課題について修正を加えて今回の実験を行い、成功させた可能性がある。
彼らは1月には水爆実験を成功させたと荒唐無稽な発表をしたが、今回は「核弾頭の爆発実験に初めて成功した」との声明を出した。これはかなり信憑性がある。北朝鮮がすでに核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる。
わが国防衛省も、今年8月に公表した平成28年版の防衛白書で、「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」と記していた。前年版の「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できない」という記述に比べて一歩、進んだ表現となっていることに注目したい。今年4月、韓国の統一部高官も「(弾道ミサイル)ノドンに核弾頭は搭載可能だ」と発言している。
中国は極秘で金正恩政権を倒して親中政権を作る工作を進める可能性がある。その兆候はいくつかある。一方、金正恩もそのことを察知しており、内心で一番警戒しているのは米韓軍ではなく、中国共産党だという。
日本としてはイージス艦の弾道ミサイル迎撃システムの増強、地上発射迎撃ミサイルPAC3の導入など、ミサイル防衛を強化しつつ、日本独自の核による第2撃能力を持つことを真剣に検討すべきときだ。
最後に、拉致問題は苦しい状況になった。安倍晋三政権の戦略は拉致の先行解決だった。しかし、当面は国際社会と共に対北制裁の強化をしなければならない。だが、被害者が彼の地で救いを待っている。親の世代の家族の衰えも目立つ。
家族会・救う会は「全拉致被害者救出のための実質的な協議を閉ざすな」と題する声明を出して次のように訴えた。
「北朝鮮が核実験を行った。わが国と世界の安全を脅かす暴挙であり強く抗議する。」
「核実験暴挙があった現時点でも、被害者を取り戻す努力は続けられなければならない。」
「わが国がかけている制裁は国連安保理決議が求める水準を大きく上回る厳しい制裁だ。国連制裁は核とミサイルを理由にしているが、わが国はそれに加えて拉致問題をも理由に明記しているからだ。核実験暴挙への抗議を強めることと、拉致を理由にかけている強力な制裁をカードとして全被害者救出のための実質的協議を行うことは矛盾しない。」
「彼の地で多くの被害者が助けを待っている。どのような情勢下でも被害者を見捨てることは許されない。むしろ核問題でかかる強い圧力をてことして、拉致被害者救出を先行させることも可能だ。政府の一層の努力を強く求める。」
今週土曜日、9月17日には今年2回目の国民大集会が都内で開かれる(午後2時から永田町砂防会館別館)。そこで安倍総理が、家族会・救う会の声明をふまえて、どのような発言をするのかが注目される。核実験は許しがたいから追加で制裁をかけるが、拉致先行解決のための秘密協議の門はいつでも開いているというメッセージを出すべきときだ。
一方、金正恩政権は核実験を行った時期に、アントニオ猪木参議院議員を平壌に招き、朝鮮労働党の李スヨン国際問題担当副委員長が面会するなど厚遇した。安倍政権への直接的批判はいまもない。彼らも、日本への接近をあきらめていない。むしろ中朝関係悪化の結果、その必要性は高まっている。水面下で拉致被害者帰国の条件を話し合う秘密協議が成立する客観条件は整ってきている。息をのむように情勢の推移を見守っている。
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