北朝鮮が5日、西岸から再び日本の排他的経済水域に3発の弾道ミサイルを発射した。地上からの発射としては8月3日の2発に引き続く複数発射である。
政治的な意味合いは別として、軍事的には1目標に異なる発射源から同時に複数の弾道ミサイルを到達させ、相手の対応を困難にする訓練を行っているものと思われる。北朝鮮が6日に公表した動画を見ると、複数の移動式ランチャーから時間差を持って発射していることが判る。将来的には東岸と西岸から、あるいはノドン、ムスダン、テポドンといった異なる種類の弾道ミサイルを複数の移動式ランチャーから時差発射して、同じ目標に同時着弾させるようなことを狙っているのではないかと推測する。
その理由は、旧ソ連時代にも米空母を攻撃する方法として、同時異方向からの複数巡航ミサイルの弾着訓練が行われていたからである。これは飽和攻撃によって相手の対処を不能にする方法として米海軍では怖れられていた。
同じようなことを北朝鮮だけでなく、中国も日本の弾道ミサイル防衛網に対して行おうとしている節がある。中国の場合は古い戦闘機を無人機に改造して防御側の迎撃ミサイル弾を消耗させ、迎撃弾が尽きた頃合いを見計らって本物の弾道ミサイルで攻撃する準備をしている。『三国志』の「赤壁の戦い」で諸葛孔明が藁人形に敵の矢を射させて消耗させる戦術の現代版である。
それにしても虚しいのは、弾道ミサイル発射の度に出される政府の声明である。「国連安保理決議違反であり、断じて受け入れられない。外交ルートを通じて北朝鮮には厳重な抗議を行った」と、何回厳重な抗議を行ったとしても、弾道ミサイル実験視察時の金正恩の高笑いが聞こえてくるような顔からは、全く意に介していないことが窺える。相手を震え上がらせるような対応を考えなければ、口先だけの抗議では思い止まらせることはできないという現実の姿である。
日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とする情勢認識は完全に破綻している。
国基研ろんだん
- 2025.07.28
- 留学生増の大学定員緩和の危うさ 大岩雄次郎(元東京国際大学教授)
- 2025.07.16
- 日本の「ハーン」がモンゴル人に与えた意義 楊海英(大野旭、静岡大学教授)
- 2025.07.11
- 「残された親世代は1人だけ」とは言うまい 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
- 2025.07.07
- 着々と進む中国の原子力開発 奈良林 直(東京科学大学特定教授)
- 2025.06.30
- 「不戦」で領土・主権を失っても良いのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
- 2025.06.26
- 電波の戦いに勝利を 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
- 2025.06.23
- 米のイラン攻撃を日本は支持せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
- 2025.06.09
- 歴史問題で対日包囲網形成の恐れ 荒木信子(朝鮮半島研究者)
- 2025.06.04
- 尖閣上空で領空侵犯機が退去しないとき 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)
- 2025.06.04
- 米価を下げる根本的対策は減反廃止しかない 山下一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)