黒田東彦日銀総裁が、異次元の金融緩和政策を導入してから既に3年半が経過した。この政策転換の結果、一言で言うならば、円安をもたらして株価を上昇させたが、実体経済には影響を与えることができなかった。
それどころか、今度は総括的検証の結果として、世界でも異例といわれる中央銀行による長期金利の操作という未知の領域に踏み込んだ。異次元の金融緩和政策と同様、肝心の目的である資金需要の拡大にどれほど効果があるのか。説得力のある説明がなされないまま、単に手段の深堀に躍起になっているように映る。
ただ、「総括的な検証」に関する記者会見における黒田総裁の以下の発言は、日銀の責任論を超えて、日本の経済再生を実現するために、政府のなすべきことへの原点回帰として正面から受け止めるべきである。
「政府は財政政策、構造改革といったことを通じて持続的な経済成長を達成し、財政については景気刺激も必要ですし、中長期的な財政構造の健全化、持続可能性を高めるということもうたっています。私自身は、日本銀行がこれだけやっているのだから政府もやりなさい、というようなことよりもむしろ、まさに政府と日本銀行の共同声明でうたわれている通り、財政運営、特に成長力を高めるための構造改革を引き続きしっかり行って頂きたいと思っています。」(日本銀行「総裁記者会見要旨」2016年9月23日)
2013年1月22日に政府と日銀が発表した共同声明では、「革新的研究開発への集中投入、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の改革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する」と掲げられている。
金融及び財政政策は短期的に景気循環を後押しすることはできても、潜在成長率までは操作できない。最終的に持続可能な成長を実現するのは、投資の拡大、生産性の上昇、そして人口の増加である。
米国及び欧州連合(EU)でも金融緩和政策がとられているが、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁や米ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁らは、構造改革なしでは金融緩和効果は表れにくいとし、成長率を押し上げるには金融政策面以外でのアプローチの必要性を主張している。
構造改革には規制改革が不可欠である。規制改革により経済成長がもたらされるのは、イノベーションの創出と構造改革によるものであり、それらは生産性の低いところから高いところへの資源の移動についての経済的・社会的制約を取り除くからである。
国民総生産(GNP)と規制の数との逆相関を示す「ロバーツ・カーブ」や、経済成長に対する政府の最適規模を探る「BARS」カーブに基づく国内外の実証分析により、規制改革が近年の肥大化した政府規模を適正化することで経済成長を促すことが実証されている。
また、1995年以降、毎年、規制改革の進捗度を数値化して評価している「構造改革評価報告書」(内閣府)でも、規制改革と生産性の向上には関連性があり、1995年から2002年までの間に非製造業で4.61%(製造業は2.98%)の生産性押し上げ効果があったとされている。
いわゆる「経済的規制」の改革はかなり進展したが、医療、介護、保育、教育、農業、労働などの岩盤規制と呼ばれる分野の規制改革は、既得権益により、ほとんど手付かずのままで、日本の生産性を落としている。構造改革を推進するには、「経済的規制は原則廃止、社会的規制は必要最低限度」という原則に立ち、抜本的な規制改革の実現が不可欠であり、今度は政府がその責を全力で果たす番である。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はその起爆剤のひとつになる。国会の早期承認に全力を挙げてほしい。
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