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2016.10.07 (金) 印刷する

富坂氏の「中国は終始守勢」には首をかしげる 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 来月の米大統領選を前にオバマ大統領の安全保障政策を総括してみたい。彼が任期中に公表した「国家安全保障戦略」には、前文で「スマートな国家安全保障戦略は単に軍事力に頼らない」と述べ、本文でも「力の行使は我々の処理の単なる道具ではない」など書いている。
 仮に念頭にあっても表には出さぬ方がいいこともあるが、これを読んで中国、ロシアや北朝鮮は「オバマ政権組みしやすし」と考えたに違いない。事実、南シナ海で航行の自由作戦を推進しようとする国防総省、国務省の主張をホワイト・ハウスは抑え続けてきた。
 10月5日付の本欄で、富坂聰氏が「『トランプだと中国は困る』は都市伝説」と題し、中国の海洋進出はオバマの弱腰によるものではなく、「中国人から見たオバマ外交は十二分に厳しい」と書いておられたが、私の認識とはだいぶ違う。
 オバマ政権は北朝鮮や南シナ海問題に関し「ここを越えたら軍事力の行使に踏み切る」という明確なレッド・ラインを定めてこなかった。またシリア問題に関しては「化学兵器の使用」というレッド・ラインを示したものの、アサド大統領が化学兵器を使用したのにも拘らず軍事力の行使に踏み切らなかった。
 こうした融和政策が、ロシアをしてクリミア併合やウクライナ東部への侵攻に、中国の南シナ海における人工島の増築に、さらには北朝鮮の度重なる核実験と弾道ミサイルの発射試験をエスカレートさせることに繋がっていった。
 その北朝鮮の核・弾道ミサイルに対抗する韓国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に関して「南部星州に配備したら200キロの射程なのでソウルは守れないし、改良型スカッドに無力なので無駄」とする発言もあるが、THAADが移動式である事やTHAADの最初のTがターミナル(終末)であるから改良型スカッドにも有効という事実を御存知ないか、中国人のTHAAD配備反対論者の言うことを鸚鵡返しに言っていることとしか思えない。
 確かに東欧だけでなく東アジアにも、そして北極海方面にも配備されるアメリカのグローバルな弾道ミサイル防衛網は、自らの弾道ミサイルを無力化される中露にとって嫌なことであるには違いない。しかし中国はロシアから、THAADの倍の射程(400キロ)で同時に6目標まで対処できるS-400を32基も導入する契約に昨年署名している。中国は「終始守勢」という富坂氏の認識にも首をかしげる。中国のTHAAD配備反対は、お得意の「自分はやっても良い。しかしお前はダメ」という中華思想そのものであり、深刻に受け止める必要はない。
 米国の中韓関係破壊という中国人の指摘よりも、トランプ発言を好機として日米同盟を分断しようとしている中国の策謀を心配した方が良い。