予想外のトランプ氏当選にメディアは、「喜ぶ露・中・北朝鮮と青くなる米同盟国」といった論調である。しかし、米国は三権分立の国であり大統領の意向だけで外交安全保障政策が決まる訳でもない。選挙中の公約がそう簡単に具現化しないことはカーター元大統領の選挙中の在韓米軍撤退発言からしても明らかである。
まず、トランプ政権で安全保障政策の要となるマイケル・フリン元陸軍中将はかつて米国防総省の国防情報局長官で、防衛省情報本部のカウンターパートであった。彼は軍幹部として米国のグローバルな戦略、とりわけ対中・北朝鮮における在日米軍基地の重要性と日米同盟のかけがえのない価値を極めて良く理解している。これまで対中融和政策をとり続けてきたオバマ政権のスーザン・ライス国家安全保障補佐官よりは、はるかにましである。
次に上下両院で多数を占めることになった共和党の政策はどうか。今年出版された共和党員政策(Republican Platform 2016)によれば、5年間続いた国防費の強制削減を解除する政策を打ち出している(42頁)。また中国の宇宙開発が凄まじい勢いであるのに対し、オバマ政権はブッシュ政権が計画していた月へ人を再び送るコンステレーション計画を中止してしまったが、本書によれば「宇宙に関するアメリカの優位を保持(6頁)」とあるので、それを復活させる可能性が高い。
さらに、トランプ氏の政策顧問らは、トランプ氏は米海軍の再建に取り組むはずだと述べ、現在274隻まで落ち込んだ艦艇数を350隻まで増やす必要性があると主張している。ちなみに中国海軍は、2030年までに415隻の水上艦艇と約100隻の潜水艦を保有する計画だ。
米海軍が目標を具現化する為に米海軍協会は「トランプ政権で好ましい海軍長官はランディ・フォーブス氏(バージニア州の共和党下院議員)」と要望している。フォーブス氏は、カーター現国防長官が沿岸域戦闘艦・フリゲート艦の調達を40隻としたのに対し、少なくとも52隻が必要だとし、原子力空母建造の加速や年2隻ペースの攻撃型潜水艦建造も主張している。
フィリピンのドゥテルテ大統領も、トランプ政権の誕生を意識して米国との関係改善に舵を切った。
日本はトランプ次期大統領に対し、我が国の米軍駐留経費への負担は国際的に見ても群を抜いていることや、民進、共産両党を主とする野党が「戦争法案」とレッテル貼りをする中、安倍政権が条件付きながら米国防衛のために集団的自衛権の行使を認める法案を成立させたことなどを説明し、安保フリーライダー(タダ乗り)ではないことをしっかりと理解させるべきである。
同時に日本自らも防衛費や自衛隊員の増員に努め、憲法を現実に即して改正するよう努力すべきだ。タブーとなっている核政策についても議論を活性化させたらいい。その意味でトランプ大統領の誕生は、日本の安全保障がいかに米国に頼りすぎていたかの反省を促し、主要国の中でも対GDP比で極めて低い防衛費を大幅に増加する議論をあらためて起こす奇貨とすべきだろう。
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