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2016.12.12 (月) 印刷する

減産合意に一喜一憂せず、エネルギー自給率向上を 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 原油安で各国の国家収入が目減りしていることを背景に石油輸出国機構(OPEC)は10日、ウィーンの本部でロシアなど非加盟国との閣僚会議を開き、非加盟国側が15年ぶりに日量約56万バレルを減産することで合意した。加盟国も11月末の総会で、8年ぶりの減産で最終合意している。
 これにより協調減産量は約180万バレルとなり、世界全体の生産量の約2%に相当する。最大の産油国サウジアラビアは約50万バレルの減産を受け入れ、ロシアも日量30万バレルの減産に応じた。

 ●世界経済には追い風要因
 合意は2017年1月1日に発効する。期間は6カ月間だが、次回の総会で延長の是非を判断する。減産順守を監視するため、加盟国と非加盟国で構成する委員会を設けることも決まった。
 OPECの合意を受けて、ニューヨーク市場の原油価格は12月2日に3日連続で上昇した。12月2日に終了した週の米国のベンチマークは12%増加し、2009年以来週間での最高収入増加率を記録した。原油相場の上昇は日本にとってガソリンや灯油価格の値上げ要因だが、2014年から続く原油安に歯止めをかけたことは、世界経済全体には追い風となる。
 しかし、今回の合意について、OPECが再び産油量の調整で結束力を示す兆候だとの受け止め方がある一方で、実際の生産調整は困難であり、仮に各国の生産枠が決定されても、それが順守されるかについては懐疑的な見方も多い。

 ●イラクはむしろ実質増産
 減産合意を受けて原油相場が上昇すれば、米国のシェールガス・オイルの増産が進み、原油需給は引き締まらない可能性もある。油価が1バレル45ドルを超えると、米国の石油掘削装置(リグ)の稼働数は増大する傾向が見られる。
 今回は、政情不安などで生産量が減少しているリビアとナイジェリアは、いずれも生産調整を免除されている。これら2カ国が増産すれば、合意された減産の効果は当然弱まる。イランは経済制裁前の日量400万バレルへの回復を主張し、減産ではなく増産凍結で譲歩したが、それでも現状の生産量を上回る模様である。
 そもそも2017年1月実施を予定する今回の減産合意は、本年10月時点でのOPEC加盟14ヶ国の日量生産量3264万バレルを基準としている。11月には過去最高の日量3386万バレルに増えていることを考えると、原油総供給量の劇的な減少とはいえず、むしろ現状維持というべき状況である。したがって、協調減産が成功しても、原油相場の上値は重いと見られている。

 ●日本は原発の再稼働急げ
 とはいえ中期的には、原油価格は現在より上昇すると見るのが順当で、日本経済にとっては逆風となる。対応策はあるのか。理屈の上では産油国の供給カルテルに対しては、消費国側が需要カルテルで対抗する措置も考えられる。これまでも、消費国の価格交渉力を強めるための方策として認識されているが、中国や韓国などとのカルテル実現は期待しがたい。供給カルテル同様、カルテル破りの誘惑は何時でも存在する。
 これからも原油価格は様々な要因によって変動することは避けられない。少資源国の日本が主体的にできることは、エネルギー自給率を少しでも引き上げ、外的要因の影響を軽減することである。そのためにも、早急に原発の再稼働を実現し、高速増殖炉の実用化に全力を挙げることが必要だ。