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2017.01.10 (火) 印刷する

憲法改正の遅れで切迫する安全保障環境 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 大晦日のNHK報道によれば、衆議院憲法審査会の森英介会長(自民党)は憲法改正について、「国民の合意形成が重要だ」とし、拙速な議論は慎むべきだという考えを示した。「拙」はともかく、速やかに行わないと我が国を取りまく厳しい安全保障環境は待ってくれない。
 ごく最近の我が国周辺の安全保障環境を概括しただけでも、以下の様な厳しい状況が見えてくる。
 昨年11月には中国の爆撃機や戦闘機が多数、宮古海峡の上空を抜け太平洋上に進出した。また12月には中国の空母「遼寧」を中心とする機動部隊が日本—台湾—フィリピンを繋ぐ第一列島線を越えて西太平洋に展開した。
 元旦付の読売新聞によれば、中国は沖ノ鳥島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)や大陸棚周辺などで海底地形の調査を行い、国際水路機関(本部・モナコ)の下部組織に対し、中国語による命名申請を活発化させている。
 こうした報道からも、中国の海洋進出が第一列島線を越えて小笠原諸島からグアム島に至る第二列島線内の制海を企図していることは明らかである。
 米太平洋軍の情報筋は「人民解放軍は短期(Short)かつ猛烈(Sharp)な戦争によって東シナ海における自衛隊の壊滅を行うべく新しい任務を付与されてきている」と明かしている。このままだと2020年に日中の兵力比は、国防費・最新戦闘機数・軍艦数等全てにおいて1対5以上となる見通しで、中国は「短期かつ猛烈な戦争」に向けた準備を着々と進めているという。
 北朝鮮は金正恩体制になってから、これまでと比較にならないほどの核及び弾道ミサイル発射試験を行っている。昨年9月には何発もの弾道ミサイルをほぼ同じ海域に同時着弾させる発射試験の後、核実験も行った。弾道ミサイルの飽和的攻撃試験は、中国も11月末に我が国を射程に収めるDF-21の同時一斉発射試験で行った。飽和的攻撃とは相手の防御能力を超えた量で攻撃することで、弾道ミサイル防衛(BMD)だけでは防御することが困難になりつつある。
 加うるに韓国の政治情勢が不安定で、親北政権が登場する可能性がある。そうなれば対馬が国防上の最前線になる事態も出てこよう。
 さらに、ロシアのプーチン大統領の訪日で行われた先の日露首脳会談でも、ロシアは第2次大戦終了後に不法占拠した北方領土の返還について言質を与えようとしなかった。そればかりか、会談を前にして国後島と択捉島には新たに最新鋭の地対艦ミサイルを配備している。そして今月20日には、米国に、「安全保障は自分でやれ」と主張するトランプ政権が誕生する。
 憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とする情勢認識は能天気と言わざるを得ない。他国に依存して自国の安全保障を全うしようとする前提は完全に破綻しているのである。
 アジア太平洋の政治・外交問題を専門とするオンライン誌『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』は1月3日付で、中国海軍航空隊の募集ビデオを取り上げ、尖閣諸島の画像とともに「領空を守れ」とキャンペーンしている様子を紹介している。記事のURLは下記の通りだ。
http://thediplomat.com/2017/01/chinese-military-recruitment-video-features-east-china-sea-air-encounter-with-japan/
 中国が武力によって尖閣を奪おうとしていることは明白だ。それを阻止するには自衛隊の存在が欠かせないのに、現憲法には自衛隊の「自」の字も出てこない。そんな憲法を速やかに改正せずして日本の安全保障は保てるのだろうか。