昨年12月の安倍首相とプーチン大統領による日露首脳会談をみて、ロシアは北方領土を日本に返還する意思が全くないと思ったのは私1人ではないだろう。戦後70年以上にわたり何回も返還交渉がなされたが,その度に日本国民は期待を裏切られ続けてきたところである。
ロシアは今回の首脳会談の直前、国後島と択捉島に最新鋭ミサイルを配備した。北海道の道東全域が射程に入るという。加えてプーチン大統領は、「日露間に領土問題は存在しない。(北方4島は)国際的な文書によりロシアの主権があると承認された領土だ」と言い放っていた。首脳会談でも平和条約締結後に歯舞・色丹の2島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言について、「両島の主権がどちらのものになるかは一言も書かれていない」と念押しする始末であった。
プーチン大統領の発言は、国後、択捉どころか歯舞・色丹の主権すら、ロシア側には返す気持ちがないことを示している。ロシアにしてみれば、4島返還はいうに及ばず、2島返還であれ、ロシアが内海としてきたオホーツク海南側が日本領となる訳であるから、国益を損なうこと甚だしく、1国の指導者として到底呑めるものではないということだろう。また不法占拠とはいえ、70年以上、北方領土を生まれ故郷とし定住してきたロシア人にすれば、いまさら他の土地へは立ち退けないということだろう。
一般的に領土紛争は戦争で決着が図られてきた歴史がある。ロシアは中国とアムール川(中国語名は黒竜江)支流にある中州の領有権を巡って争っていたが、ロシアが実効支配していたにもかかわらず、中国に大幅に譲歩して解決をはかった経緯がある。だが、これは例外中の例外である。どんなに強力な人物が日本の首相になろうとも、外交交渉や経済協力だけでは北方領土は1島たりとも日本に返還はされない。そのことを日本国民は肝に銘じるべきである。
ロシアに北方領土を返還させるためには、ロシアを畏怖させるに足る領土奪還可能な実力部隊を道東部に配備、それを支える憲法改正を頂点とする法体制の整備、故大平正芳外務大臣が提案した国際司法裁判所への提訴を含む対ロシア包囲網の形成―などが必要で、これらを交渉武器として首相に与えるべきである。
これらの交渉武器を首相に付与する考えが我々国民の側にないのなら、北方領土返還は当面諦めるべきである。少なくとも北方領土への経済協力は一切すべきではない。経済協力をすればするほど、北方領土はそこに居住するロシア人にとって便利で快適な島々となり、返還が遠のくこと必定である。
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