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2017.01.23 (月) 印刷する

欧米はなぜ中韓のプロパガンダを信じるのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 16日付で、「慰安婦問題でなお偏向する米紙社説」と題する「直言」を書いたが、その後、アパホテルが客室に備え付けた図書について中国外交部が、「南京大虐殺などを否定するものだ」と、いわれなき攻撃を加えている。
 直言では、「性奴隷」という表現と「20万人」という数の両面で事実と異なることを指摘したが、南京大虐殺についても「大虐殺(ナチスがユダヤ人に対して行なった組織的殺戮)」という表現と「30万人が殺された」という数値の両面で、事実に基づかないプロパガンダという点で共通している。
 それにしても中韓のみならず、欧米の識者の多くですら、上記指摘に対して即「修正主義者」とのレッテルを貼って攻撃するのはどうしたことだろうか。欧米の識者は中国が領域問題で行なっているプロパガンダについては、歴史的な事実・証拠に基づいていないとする立派な文献を出版しているのに、こと歴史問題に関しては中韓の言い分を鵜呑みにするのは理解に苦しむ。

 ●欧米社会もいずれ標的に
 考えられる理由はいくつかある。ひとつは第2次大戦で彼らは日本を敵として戦ったが故に、自国の正当性を主張するため日本悪玉論を簡単に鵜呑みにする思考傾向があるのではないかということだ。東シナ海、南シナ海での中国の領域拡張プロパガンダに関しては、国際秩序を乱し、自国の利益にも悪影響を及ぼすから史実に基づいてしっかりとした反論をする。しかし、歴史認識のプロパガンダについては日本と中韓の問題にすぎず、欧米諸国には直接関係ないと考えている節がある。
 2つ目としては、日本から然るべき英語による発信が不足しているということが考えられる。
 前者に関しては、将来、自国の国益を損じるような可能性が出てくれば真剣に事実・証拠を調査するようになるかもしれない。例えば将来、漁船を装った中国の海上民兵が機雷を敷設した場合、これは戦闘行為だとして西側の軍艦が攻撃することは十分考え得る。

 ●日本としての対外発信重要
 中国は、「無辜の漁船を軍艦が攻撃した」と国際社会にアピールするに違いないが、これは、軍服を脱ぎ捨てて武器を隠し持ち、敵が弱みを見せると攻撃を仕掛ける便衣兵のやり口と同じだ。むろん国際法違反行為であるが、これを処断したことを中国は一般市民の虐殺行為だと非難してきた。
 また韓国には2004年9月まで米兵相手の慰安所があったことが判明している。日本に対する慰安婦像の増殖を許せば、米兵に対する慰安婦像も将来増殖することが予測し得る。中韓の歴史プロパガンダを野放しにしておくことは将来、欧米諸国にとっても禍根を残すことを訴えていくべきであろう。
 後者の英語発信力に関しては外務省や官邸国際広報室の役割に期待したい。