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2017.05.01 (月) 印刷する

中国にTHAAD配備を非難する資格があるのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備が韓国南部の星州ゴルフ場内で始まったことを受けて26日、中国外務省の副報道局長は「必要な措置を取る」と述べた。
4月27日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報には軍事専門家の意見として、①THAADレーダーに探知されないステルス性に如何に移行するか②THAADの脅威を取り除くための先制攻撃を如何に行うか――について、具体的に対レーダー発射源ミサイルや地対地ミサイル、巡航ミサイルの使用について検討すべきとの論評を掲載している。
 それでは中国は他国の軍用機を探知するようなレーダーを配備していないのか? そんなことはない。

 ●超水平線レーダーで沖縄、岩国を監視
 昨年、米国の有力シンクタンク、ランド研究所が公表した「米中軍事スコアカード」の158頁には中国内陸部の襄陽市付近に水平線の先まで監視できるOTHレーダーが配備され、東シナ海はおろか南西諸島をはるかに超えた海域まで監視している図が掲載されている。これで中国は、嘉手納基地を含む沖縄発進の航空機の動向を把握していることが判る。
 また、本年3月、複数の外国メディアに、中国が内モンゴルにもう一基OTHレーダーを配備し、朝鮮半島はおろか小笠原列島をも含む日本のほぼ全域が監視されている覆域図が出ている。軍事情報提供サイト、グローバル・セキュリティーが3月17日付で掲載した情報によれば、岩国基地から離陸するステルス戦闘機F-35Bの動静まで把握できると報じている。
 両OTHレーダーとも、探知距離は最大3000kmであるので、THAADレーダーの600〜800kmの4〜5倍である。

 ●「自国は良いが他国はダメ」の中華思想
 さらに昨年8月15日付の直言にも筆者が書いたように、中国はTHAADの倍の探知距離を持ち、同時に6目標への対処が可能な地対空ミサイルS-400をロシアから32基も着々と導入しているのである。今世紀初頭も、中国は日本の弾道ミサイル防衛に強烈に反対しながら2010年1月にはちゃっかり自国の弾道ミサイル防衛試験に成功している。要するに「自国は良いが他国はダメ」という中華思想丸出しのメンタリティーであり、国際社会では到底受け入れられない。
 「俺の物は俺の物、人の物も俺の物」。この言葉は2011年にオーストラリアにおける国際会議で米海軍大学の教授が中国の海洋における行動を表した表現である。英語で表現すれば“What is mine is mine, what is yours is also mine”である。この表現は、もはや多くの中国専門家の間では共通の認識となっている。ことほど左様にTHAAD配備反対もマトモに受ける必要がない中華思想の現れだと思っている。