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2017.06.19 (月) 印刷する

中国が北のミサイル発射を支援する悪夢 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 5月30日に北朝鮮は対艦弾道ミサイルを発射して朝鮮中央通信は「7メートルの精度で目標に命中させた」と報じた。中国の対艦弾道ミサイルであるDF-21Dですら平均誤差半径(Circular Error Probability-CEP-)が30〜40メートルとされているのに、独自の航法衛星を保有していない北朝鮮がそんな精度に達するはずはない、と眉唾ものだと思っていた。
 ところが、香港を拠点とする日刊オンライン紙Asia Timesが5月24日付で「北朝鮮は中国の衛星をミサイル誘導に使用しているのか?(Is North Korea using China’s satellites to guide its missile?)」という記事を配信した。それによれば、中国は米国が打ち上げたGPS(衛星利用測位システム)を利用せず「北斗」と称する独自の航法衛星を既に20基以上打ち上げ、2020年までには、さらに少なくとも30基の「北斗」を打ち上げて、精密な航法機能を持たせようとしている。これらによって精度はメートル単位ではなく、センチメートルの単位にまで向上する。そうなれば7メートルの精度を得ることもまんざらではなくなってくる。

 ●サイバー攻撃が効かない高機能
 また北朝鮮が過去に弾道ミサイルの発射実験に失敗した際、米国のサイバー攻撃によって失敗させられたのではないか、との指摘が多くなされて来たが、北朝鮮がサイバー攻撃を不可能にするとされる中国の量子衛星を通信ネットワークに使うことになれば、アメリカのサイバー攻撃も功を奏さなくなる。
 既に6月15日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「中国はハッキングができない量子ネットワークに向けて大躍進(China Makes Leap Toward ‘Unhackable’ Quantum Network)」との記事を、また翌16日の人民日報(英語版)も「中国の量子衛星は1200キロを超えた光子鉄条網を確立(China’s quantum satellite establishes photon entanglement over 1,200 km)」との記事を掲載している。怖いのは北朝鮮が、このサイバー攻撃不能な中国の量子ネットワークを将来使用することである。
 北朝鮮は4月15日に行なった軍事パレードで新しく登場させた弾道ミサイル5種類のうち、既に管制翼が付いたKN-17は4月29日に、火星12号は5月15日に、北極星2号は5月21日に、それぞれ発射・成功させた。残る2種類は大陸間弾道弾(ICBM)である。これらが高精度の、またサイバー攻撃が効かない中国の衛星機能を使用することになれば、米国にとってのみならず我が国にとっても悪夢だ。