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2017.06.22 (木) 印刷する

主体思想派が側近固める文政権の危険性(下) 西岡力(麗澤大学客員教授・モラロジー研究所歴史研究室長)

 徐薫国家情報院長は国情院に長く勤めてきた対北専門家だ。盧武鉉政権時代、対北秘密交渉を担当し、北朝鮮に多くの人脈を持つ人物として知られている。その徐院長に文在寅大統領は国情院の改革を命じた。文大統領は国情院について2つの公約をしていた。

 ●スパイと従北勢力の跋扈を放置
 第1は、国内における情報収集を止め、海外でのみ情報収集を行う。2番目は北朝鮮スパイや従北活動家に対する捜査を警察に移す。文大統領は6月1日の任命式で徐院長に「まずは国内政治への介入を徹底的に禁じるべきだ。国民と何度も約束したので必ず進めてもらいたい」と指示した。
 徐院長は国会で開催された公聴会で「自分の考え方は(文大統領と)完全に異なるわけではない」と明言しており、就任直後に文大統領の公約に沿って、国情院の国内部門の機能縮小を命じた。
 国内情報収集なしに従北勢力の取り締まりは不可能だ。スパイ取り締まりは高度の専門性が求められる分野で、警察はその能力が乏しい。文大統領の公約がその通り実現すれば、スパイ取り締まりのための国家保安法は死文化し、これまで以上に北朝鮮のスパイと従北勢力が跋扈することになろう。
 首相の李洛淵氏が革命宣言をし、国情院がスパイ取り締まりを止める改革を実行しようとしているのが、今の韓国だ。

 ●側近ナンバーワンは活動家出身
 3人目の幹部で側近ナンバーワンの任鍾晳秘書室長は、1980年代から活発に活動してきた筋金入りの従北派だ。彼は1966年、全羅南道で生まれた。現在51歳だ。1986年、漢陽大学に入学し、学内にあった親北地下サークルに加わり、学生運動の活動家となった。1989年には漢陽大学総学生会長となり、主体思想派の地下サークルに推薦されて学生運動の全国組織「全国大学生協議会(全大協)」の第3代議長となった。韓国の国家安全企画部(現在の国家情報院)が当時、捜査記録に基づいて作成した『全大協は純粋な学生運動組織なのか』には以下のような記述がある。
 「1987年5月、全大協第1期が結成されてから1991年6月現在の全大協第5期まで歴代全大協議長はすべて主体思想派地下革命組織から派遣された地下革命組織員であることがこの間の調査過程で明らかになった」「全大協第3期、第4期、第5期議長の任鐘晳らも主体思想派地下組織自主・民主・統一グループ(自民統)が全国学生運動を主導、掌握するために全大協に浸透させた地下組織員たちだった」
 任室長は1989年、全大協議長のとき、組織の女子学生を平壌に派遣し、北朝鮮が前年のソウル五輪に対抗して大々的に開催した世界青年学生祭典に参加させた。その訪朝は国家保安法違反となり、女子学生とともに任氏も逮捕され、実刑判決を受けた。3年6カ月の刑期を終えたあと、金大中政権当時の野党総裁が「野党には若い血が必要」として任氏をソウルから国会議員に立候補させ、任氏は2000年と2004年の選挙で与党候補を破って当選した。その後は、左派の朴元淳ソウル市長の下で副市長をしていた。

 ●太陽政策を率先して推進
 国会議員時代の任室長は従北議員の代表として、2004年8月4日、国家保安法廃止立法の推進委員会に参加、同年12月14日には、同法の年内廃止を求める議員団に加盟するなど国家保安法廃止のために活発に活動した。2004年9月2日、米国議会が北朝鮮人権法を制定したことに抗議する議員書簡に野党議員25人とともに署名し、2005年7月14日には「米国と日本の北朝鮮人権問題提起を糾弾する決議案」にも参与した。同決議案は、「国際社会の一角で北朝鮮の人権問題を取り上げることは北朝鮮核問題の解決に否定的な影響を与える憂慮がある」と主張している。
 2006年10月9日、北朝鮮が1回目の核実験を行うと、任氏は北朝鮮ではなく米国を非難し、北朝鮮に対する包容政策(太陽政策)の持続を求めた。南北経済文化協力財団理事長として北朝鮮の金日成大学の図書館拡大事業を支援し、統一部を通じて2007年末までに7億1700万ウォンを送金した。
 任氏の一番の問題は、自身の主体思想派の地下組織メンバーとしての活動について、公に転向宣言をしていないことだ。まさに国情院の国内部門が任氏を調査しなければならないはずだが、彼はすべての機密を自由に閲覧できる立場にいる。