公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.07.12 (水) 印刷する

欧州でも高まる北朝鮮、中国への懸念 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 7月11日、ドイツのアデナウアー財団と米テンプル大学が共催した「2017年のアジアとヨーロッパにおける安全保障チャレンジ」会議が都内のホテルで開かれ、筆者は「孫子の兵法に基づく中国の海上ハイブリッド戦」の講演を行った。
 ハイブリッド戦とは、住民の自決権などを名目に民兵を装った特殊部隊を駆使し、正規軍によらず領土拡大の成果を得ていく作戦形態を指す。ともすると、ウクライナ紛争のようにロシアの専売特許であるかの印象を抱きがちだが、実はもっとも得意にしているのは中国である。
 中国は、戦闘員ではない海上民兵や海警を駆使し、同時に偽情報を流して既成事実を積み重ね、現状変更を試みている。今回の講演では、この実態を欧州からの出席者に知らしめることができた。

 ●アジアの安保上の懸念は欧州も共有
 同時に今回の会議では、欧州諸国のアジアにおける安全保障上の懸念が多く示されたので、それについても記述してみたい。
 4日に発射された北朝鮮の大陸間弾道弾(ICBM)は米国に到達するだけでなく、ヨーロッパも射程に入れつつある現実について、開会の辞を述べた駐日ドイツ大使や基調講演を行った欧州連合(EU)大使からも表明された。こうした事実は、逆に見れば北朝鮮問題の解決に欧州諸国との協力が得られることに他ならない。
 北大西洋条約機構(NATO)の代表は、インド洋には中国が開発した18の港湾施設が点在することを地図で示し、米軍のようにハードな基地ではないにせよ、日欧は米印とも協力してインド洋におけるデータ・ベースを構築すべきであると主張していた。
 またスリランカの退役海軍大将(博士号も所有)が、「中国は力の空白があれば即それにつけこんで侵入してくる」と述べていたのが印象的であった。

 ●ロシアの脅威には共感乏しい日本
 欧州諸国にとっては、クリミアやウクライナ東部を実効支配し、同時にプロパガンダによる情報戦を仕掛けているロシアに対して、何故日本は脅威感を共有しないのかという懸念が示された。
 先月、筆者も嘗て学校長をしていた防衛省統合幕僚学校(配下に国際平和協力センターを持つ)が、ドイツ連邦軍の指揮幕僚大学からの申し入れに応じ、初めての外国軍大学との連携協定を結んだ。今後とも日欧の安全保障関係は、強まりこそすれ後退することはないであろう。