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2017.07.10 (月) 印刷する

劉氏と夫人の日本受け入れも選択肢に(上) 阿古智子(東京大学大学院准教授)

 末期癌と診断され、仮釈放された劉暁波氏に関して、連日報道が行われており、中国政府は劉氏の診断と治療に国内外の著名な専門医が参加し、24時間体制でケアを行っていると伝えている。国際的に知名度が高く、今回の病気で世界各国からより多くの関心を集めている劉氏を、中国政府は無下に扱うことなどできないだろう。とはいえ、死を待つ身になるほど病が悪化するまで、家族にさえ病状を伝えなかった。今になって、さまざまな情報を開示し、手を尽くしていることをアピールしても、説得力はない。その上、劉氏がここまで深刻な病状に陥るまで、中国政府は夫人の劉霞氏を常に監視して軟禁状態に置き、彼女が劉氏に面会する権利を奪っていた。

 ●2年前の一斉取り締まりと拘束
 このコラムを書いているのは2017年7月9日だ。この日を709と記す人たちがいる。ほとんどの人にとって、709は何の意味もない数字だろう。だが、弾圧されている中国の人権派弁護士とそのご家族、支援者にとって、7月9日を表す709は特別な数字だ。いまだ拘束されている弁護士の中には、私自身、長年の付き合いがある江天勇さんが含まれているし、同じく拘束され、状況がほとんどわからない王全璋さんの夫人には、李和平さん(2017年5月に国家政権転覆罪で懲役3年、執行猶予4年)の夫人の王峭岭さんや子どもさんと一緒に、何度も話を聞かせてもらった。
 2年前の2015年、7月9日前後から中国では、300人ともいわれる規模で一斉に弁護士や活動家に対する取り締まりが行われた。約30人が拘束され、そのうち、逮捕、起訴され、有罪判決を受けた人もいる。依然、拘束を解かれておらず、どこで、どのように過ごしているのかさえ、わからない人もいる。中国の法律に基づけば、国家政権転覆の容疑などがかけられている場合は、家族にさえ拘束の状況を伝える必要はないのだが、普遍的な人の権利を考えれば、いかなる犯罪者であっても、人として基本的な権利を主張できるはずだ。

 ●国際社会の関心と支援が力に
 709の弁護士たちは、社会的弱者の権利擁護のために奔走してきた。夫や友人、知人の早期釈放を求める家族や支援者は、国際社会の関心と支援が力になると訴えている。弁護士らは劉氏ほど知名度が高くはなく、日本でもあまり報じられてはこなかったが、拘置所や監獄で弁護士らがどのような扱いを受けているのか、ほとんど情報がなく、懸念する声が上がっている。国際社会が関心を示すことで、彼らが適切な扱いを受けるようになるかもしれない。夫の帰りを待つ妻や子どもたちの心の叫びを、隣国の日本からももっと聞いてあげるべきではないだろうか。
 中国の人権問題など、日本人には関係ないのだろうか。
 私も研究者なのだから、そんなことに関わる必要はないと言われることもある。私は研究において、社会学の「参与観察」(研究対象となるコミュニティや組織などに何らかの役割を得て参加しながら、観察を行う)の手法もとっている。自分の研究上の関心から、普段から弁護士らと付き合い、彼らが社会の問題にどのように向き合っているのかを見てきた。彼らのプロジェクトに「参加」するところまではなかなかいかないが、家族ぐるみで食事したり、遊んだりしながら、彼らの苦悩を共有することもある。(下に続く)

劉氏と夫人の日本受け入れも選択肢に(下)