私のように中国の人権に関わる仕事をしていない人にとっては、やはり自分はあまり関係がない、と思われるかもしれない。私はそう思わない。中国が世界全体において、強大な影響力を誇示していることを、我々はもっと認識すべきではないだろうか。日本では、中国人が土地を買い占めているだの、東南アジア、中東、アフリカにまで積極的にプロジェクトを展開しているだの、中国の進出を否定的に報道し、それを「脅威」と捉えることが少なくない。
●中国の人権問題は人類の発展に影響
しかし、中国の国として規模、経済力を考えれば、こうした趨勢に抗うことなど不可能だ。もっとそれを、当たり前としてとらえるべきだし、さらに言えば、中国のインパクトが及ぶこと自体を悪いと考える必要などないと、私は考えている。我々にとって重要なのは、中国の優秀な人たち、志を同じくする人たちと繋がっていくことではないだろうか。
逆に言えば、価値観を共有できないような中国の勢力が海外の隅々にまで及び、それが実際に「脅威」となるのであれば、我々(日本の多くの人が平和や立憲主義において価値観を共有できると考えて「我々」と表現しています)は、自らが信じてきたものを、あきらめなければならなくなる。平和や立憲主義が侵されていく。学問の自由がなくなり、弁護士やジャーナリストが、弱者の立場から活動し、発信しなくなるだろう。
短期的に利益を維持することだけを考えるなら、その時その時のリスクをある程度コントロールすればよい。だが、私たちの子どもたち、孫の世代にまで及ぶ問題を、今の社会を中心的に担う人たちがもっと真剣に考えるべきではないだろうか。大げさかもしれないが、中国の人権問題は、人類の発展に甚大な影響を与える要素につながっている。
● 政治犯により大きな関心を
当然、中国の問題を指摘するのであれば、合わせ鏡の反対に自分たちの姿も映し出されている。戦後日本が二度と戦争を起こさないと誓い、少しずつ推進し、成熟させてきた民主主義、法の支配、言論の自由はどのような状況にあるのかを、再点検する必要があるのは言うまでもない。
日本が中国を牽制するためだけでなく、普遍的な価値として民主や自由の価値を尊び、世界の平和に貢献することを示すためにも、仮釈放された劉暁波氏本人と夫人が望んでいるのなら、劉氏の海外での治療を認めるよう、中国政府に働きかけるべきではないだろうか。民間レベルででも、政府レベルででも、条件が整ったのであれば、劉氏と夫人を日本で受け入れることも一つの選択肢になるだろう。709の弁護士たちなど、弾圧されている中国の良心ある政治犯にも、より大きな関心を寄せるべきではないだろうか。
*7月27日に「709の人たち−−不屈の中国人権派弁護士とその支援者たち」という記録映画を上映します。香港から監督をお招きしてのトークセッションもあります(18時から。東京大学駒場キャンパスKOMCEE K213教室にて。無料。申し込み不要)。是非、映画を通して、弁護士とその家族、支援者の言葉を聞いてみてください。画面を通して、彼らの姿を見てみてください。(止)