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2017.12.20 (水) 印刷する

「密漁船」とばかりは言えぬ北の漂着船 山田吉彦(東海大学海洋学部教授)

 我が国の排他的経済水域(EEZ)内にある「大和堆」海域に北朝鮮の漁船が大挙して押し寄せ、主にイカの密漁を行っている。
 EEZ内では、日本政府の許可無く漁を行うことはできない。水産庁は漁業取締船を派遣し、6月、7月の2カ月間で、延べ約1500隻をEEZから排除した。しかし、7月に北朝鮮漁船が取締船に小銃を向ける事件があり、この時期からは海上保安庁が前面に出て本格的な警戒に乗りだした。海保は12月中旬までに木造船延べ約1400隻、鋼船延べ約500隻を退去警告の上、従わない場合は放水銃を使い、EEZ外に追い出している。

 ●過去最高の86隻が漂着
 大和堆に侵入してくる北朝鮮漁船は、木造船で300隻から400隻、鋼船では50隻から100隻程度と推定されている。いったんは排除しても、巡視船の姿が見えなくなると大和堆に舞い戻り、不法操業を続けているのだ。警告や放水だけでは、解決策になっていないのが実情である。
 日本の国内法に従い、拿捕、逮捕も視野に入れなければ、北朝鮮船による密漁は無くならない。一部には中国船らしき漁船による密漁も報告されている。 
 さらに問題なのは、北朝鮮の木造漁船の日本への漂着である。こうした漂着船は12月18日現在、過去最高の86隻にも上っている。気がかりなのは、この漂着船に乗っているのは、単なる漁民ではない可能性が強いことだ。
 まず、日本海に送り出された船の2割から3割は、帰還することができないと聞く。そのような危険な漁に、漁民は自ら出漁はしない。さらに、船上に干されたイカの量から推定すると、漁獲高は1隻あたり日本円にして10万円にも満たないようだ。いくら小さな船でも燃料代にもならないだろう。

 ●船内から不審な証拠も続々
 危険かつ採算が獲れない漁を行うのは、軍が関与しているためと考えられる。11月末、北海道の松前小島に漂着した船は、舵が壊れ、乗組員は1カ月も漂流していたというが、その割には、ほぼ健康体であった。しかも、漁具はあまり積んでいなかったようだ。
 彼らは島の漁師小屋から発電機や家電製品を持ち去ろうとし、任意で取り調べを受けていたが、船ごと逃亡を企てたこともあり、北海道警は船長ら3人を窃盗容疑で逮捕した。船には北朝鮮軍の部隊標識が付けられ、船員は軍に所属することを示す船員手帳を保持していた。漂流漁船による行為とは到底考えられない。
 また、青森県佐井村に漂着した漁船からは、普段、漁師が使うとは思われない靴底がつるつるの革靴、英語の文字が書かれたジャンバーなどが発見されている。これらの証拠からも、漁民ではない人々が不法に上陸、入国している可能性が強い。
 また、昨年、漂着した船の生存者はゼロであったが、今年は42人が生存している。漁よりも日本への漂着を目指していた可能性がある。侵入の目的としては、覚せい剤の密輸、工作活動などが挙げられる。

 ●有事の脱出ルート下見か
 このほか、朝鮮半島有事の際に、海路による日本への脱出ルートを確認していた可能性がある。今年の漂着の成功事例から、数千人規模で北朝鮮からの脱出者が漁船で日本列島に押し寄せる可能性がある。
 基本は、日本の管轄海域への侵入や密漁を許さない体制を作ることであるが、沿岸、特に無人離島の管理を強化する必要がある。
 とはいえ、海上保安庁の警備にも限界はあるだろう。人員、船舶を増やすことは不可欠だが、漁民や海運事業者の協力を仰ぎ、情報交換を密にして警戒態勢を構築することが望まれる。無人島に遠隔操作の監視カメラやレーダーを設置することも有効だろう。
 再び、拉致被害のような悲劇を許してはならない。北朝鮮に対しては、常に「もしも」に備え、万全な対策を取らなくてはならない。