公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.12.20 (水) 印刷する

NSSの米国第一主義は視野狭すぎぬか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 トランプ米政権下の国家安全保障戦略(National Security Strategy-NSS-)が18日、公表された。大統領の巻頭言で先ず気付かされたのは経済最優先の姿勢である。優先順位は「経済」を第一に、「軍の再建」「国境防衛」「主権保護」が続き、これまでのNSSが優先的に掲げて来た「自由・民主主義」や「人権」といった価値観は5番目に列せられている。
 巻頭言では、ならず者国家としての北朝鮮、イランとともに、イスラム国(IS)やアルカイダといったテロリスト・過激主義との闘いを揚げているが、中国やロシアについては言及されていない。
 中長期的な国家の脅威としては先ず中露が挙げられるべきであると思われるのに、後段の本文で現状変更国家として触れているだけだ。これでは、あまりに視野が狭いと言わざるを得ない。

 ●一層の防衛費負担を要求か
 導入部で先ず目につくのが「アメリカ第一」である。これを言い換えるなら、北朝鮮が核弾頭付きの弾道ミサイルで米本土を攻撃できる能力を持てば、「自国民を犠牲にしてまで同盟国を守ろうとはしない」と読み取れないだろうか。米国と同盟国の絆が切り離される、いわゆるデカップリングが起ころうとしている。
 さらに巻頭言には、「アンフェアな同盟国の負担分担」とも記されている。本文中にも「同盟国に対しフェアな貢献と負担を期待する」と言う言葉がある。これまで国内総生産(GDP)の1%以下でしか防衛費を投入して来なかった我が国に対し、米国がより一層の防衛費負担を要求してくることは明らかである。

 ●米国防費の削減には歯止め
 否定的な面ばかりではない。歴代のNSSの地域別記述では、これまでのNSS(1997、1999、 2002、2010の各年版)では、ヨーロッパ・ユーラシアが最初だった。東アジアは2006年版では7番目だった。
 ところが、今回のNSSでは、アジア太平洋へのリバランスを決めた前回2015年版に引き続きインド・太平洋が最初に記述され、次いでヨーロッパ、中東、南・中央アジア、西半球、そしてアフリカの順になっている。とりわけ米・日・豪・印の4カ国協力の増大と台湾防衛の必要性にコミットした点は注目に値する。
 また、これまで議会の強制的な措置により、国防予算が削減されていたが、「力を通じて平和を保護」のスローガンの下、核戦力をはじめとする軍事力、宇宙、サイバーに優先して予算を傾注しようと決意を述べている。この点は、中長期的に中国の拡張主義に直面する我が国として率直に評価したい。