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2018.01.25 (木) 印刷する

文政権の反日ポピュリズムを甘くみるな 久保田るり子(産経新聞編集委員)

 日韓合意に対する韓国・文在寅政権の態度は欺瞞に満ちている。世論調査では90%以上の日本人が「納得できない」と拒否感を明示したが、日本に広がった対韓不信は今後、韓国にとって大きな損失をもたらすだろう。
 日本人がこれほど怒るのは、政府間合意を簡単に反故にする韓国側の非礼ぶりもさることながら、非は日本側にこそあるという偽善極まりない態度、執拗な反日意識を韓国側がむき出しにしたからだ。
 「再交渉は求めない」と当たり前のことを訳知り顔で語る一方、日本が元慰安婦の「癒やし金」として拠出した10億円については、同額を「韓国予算で充当する」とした。合意を破棄扱いにしたうえで、「真の問題解決になり得ない」とその意義を全面否定した。合意の「検証」と称して、韓国政府の意向に沿う民間委員らに、交渉の非公開部分を「裏合意」と決めつけて暴露し、責任を日本に押し付けた。
 元慰安婦の約7割はすでに「癒やし金」として、ひとり約1000万円を受け取っている。韓国は何を根拠に「当事者の意思を適切に反映していない」などと言えるのか。文政権は拠出金の今後について「日本と協議する」と一方的に表明、さらに「(日本の)自発的な努力」も求めた。

 ●再交渉せず謝罪は求める矛盾
 日本政府がこの「追加要求」を断固拒否するのは当然だが、問題は今後の対応である。外交安保と歴史問題を分けて扱う「ツートラック」を主張する文政権は、合意を棚上げにして外交関係の継続を求めるだろう。それに応じれば彼らの思うツボである。蒸し返された慰安婦問題はくすぶり続け、慰安婦像が増え続けることになる。
 日本政府は、文政権の求める協議を拒否するだけでは不十分だ。日本は、「日韓合意」の意義を国際的に認知させ、維持する立場から、文政権の主張が、いかに不適切なものかを明らかにし、日本の主張を明確に国際社会に向けて発信すべきである。
 日本が「和解・癒し財団」に拠出した10億円についても、韓国政府の責任の下、どのような形で使われてきたかを日本の立場から検証し、公表する必要がある。ウィーン条約違反が明白なソウル日本大使館前と釜山日本総領事館前の慰安婦像の撤去についても、改めて国際社会に韓国政府の怠慢ぶりを周知すべきだ。
 元慰安婦が「性奴隷」などではなかった事実についても、韓国がいかに虚偽のイメージ操作を行ってきたか、根拠とともに改めて発信すべきである。
 再交渉はしないが、日本には自発的に新たな謝罪を求める、という虫のいい今回の文政権の態度表明について、一部日本メディアには、文大統領が反日世論と外交の板挟みにあって現実主義を取った-などとする大甘な分析も見られた。これでは韓国のしたたかな反日攻勢を見誤る。

 ●真の狙いは戦時賠償の復活
 日本メディアは、文政権の本質をしっかりと見極める必要がある。文政権が狙うのは慰安婦問題だけではない。徴用工問題でも、国内の司法判断を根拠に歴史問題を再燃させようとしている。
 元徴用工の個人請求権は、1965年の日韓国交正常化交渉で解決済みの問題だ。韓国の歴代政権もこれを踏襲してきた。だが2012年に韓国大法院(最高裁)が「個人請求権は消滅していない」との判断を示したことで、差し戻し審では日本企業に対する賠償命令の判決が続出している。
 大法院はその後、判決言い渡しを留保し続けてきたが、文大統領は昨年から「強制徴用の問題も個人請求権が消滅していないというのが、韓国司法の判断」などと述べて、韓国社会の反応と日本の様子をうかがっている。
 文政権は、朴正煕時代の日韓正常化交渉を〝原罪〟として敵視している。韓国は日本の経済協力資金と引き替えに放棄した「戦時賠償」について、従来の立場をすべて覆そうとしている。慰安婦問題では国家賠償、徴用工問題では個人賠償である。
 それは歴史を遡及して韓国建国期の保守政権を否定しようとする文政権の革新思想の信条に根ざしているようだ。さらには、将来の北朝鮮と日本との国交正常化への地ならし、との思いもあるようだ。文政権は今後も執拗に歴史問題を蒸し返し、その責任を日本に押しつけてくるだろう。防戦に追われるようでは彼らの陥穽にはまる。文在寅政権の反日ポピュリズムを甘くみてはならない。