最近、ある国際政治学者がテレビのワイドショー番組で北朝鮮の潜伏工作員「スリーパーセル」について発言し、批判を受けているという。私は北朝鮮問題専門家として、1980年代から北朝鮮工作員の日本での活動について関心を持ち情報を集めてきた。1991年、私が日本人学者として初めて北朝鮮による日本人拉致について論文を書いたのもその成果の一部だった。
以下、私が知っている潜伏工作員に関する情報を書いておく。事実に基づく冷静な議論が安全保障問題では大切だからだ。
2000年代初め、治安機関幹部は次のように説明した。
「日本国内に潜伏している北朝鮮工作員は3桁います(100人を超え、1000人には満たないという意味)。彼らは軍事訓練を受けており、重火器も持ち込まれています。彼らは24時間監視下に置かれています」
●一部は実態把握すら困難
また、韓国に亡命した元工作員は、1990年代初め頃、北朝鮮の工作員養成学校である金正日政治軍事大学の教官から聞いた話だとして以下のように証言している。
「日本には既に200人が浸透している。その協力勢力を含めれば数千人になる。200人のすべてが北朝鮮から浸透してきた人間ではなく、在日組織等の人間も含まれている。200人は専門的なテロ活動の教育を受けている。訓練が足りない場合は、日本からの短期訪問団の一員として北朝鮮を訪問し、他の団員たちが国内を回っている間に、テロ教育を受けて帰る」
以上は20〜30年あまり前の情報だ。最近の様子について、在日組織の力は顕著に落ちており、非合法活動を行うことはもはや不可能ではないかとみる専門家もいる。
潜伏工作員には3種類あると想定される。第1は北朝鮮から潜入して合法身分を獲得しているケースだ。それほど数は多くないが、その存在を把握することは極めて困難ではないかと想定される。
第2は日本国内に居住する青年らが北朝鮮で訓練を受けて戻ってきたケースだ。相当数いてもおかしくないが、前者に比べて把握は容易だろう。
●破壊対象は在日米軍基地
第3は日本人が北朝鮮に入り、洗脳されて帰国し、北朝鮮の指令を受けて日本国内で活動しているケースだ。よど号ハイジャック事件を起こした赤軍派は北朝鮮で洗脳され、自主革命党という朝鮮労働党の下部組織を作った。彼らは1980年代に何人かの同党党員を帰国させて自衛隊に潜入させる工作を行ない検挙された。
次に彼らが日本国内で破壊活動を行う危険性について書いておく。元工作員によると、彼らの破壊工作のターゲットは在日米軍基地だ。大都市での無差別テロではない。
彼らが破壊活動を行うのは、北朝鮮軍が奇襲南侵を始めるときか、米軍が北朝鮮を攻撃して最高首脳部を狙うときだ。その2つの場合に、在日米軍基地を使えなくするための破壊工作を準備して、繰り返し演習をしているという。したがって、潜伏している場所も大都市よりも米軍基地の近くが想定される。