公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.04 (水) 印刷する

拉致解決はなぜ日米共同の課題か 島田洋一(福井県立大学教授)

 拉致被害者、曽我ひとみさんの夫で、作年亡くなったチャールズ・ロバート・ジェンキンス氏の回想録『告白』(角川書店)に次の一節がある。夫妻には2人の娘がいる。
 ≪1995年、幹部たちが何人かやってきて私たちに告げた——「金正日同氏の偉大なるお心遣いによって、あなたがたの子どもたち全員が平壌の外国語大学へ入学できることになった」。その時、「組織」が私たちの子どもたちを全員工作員に仕立て上げようとしていることを私は知った。≫

 ●北の卑劣な〝機密保持〟
 文中の平壌外国語大学は大韓航空機爆破事件(1987年)の実行犯、金賢姫の母校でもある。彼女は在学中に工作機関にピックアップされた。ジェンキンス氏は続ける。
 ≪韓国には米国兵と韓国人女性の間に生まれた子どもたちが大勢いる。だからわが家の娘たちもソウル市内や米軍基地を平気な顔をして歩けるはずだ。…父親は韓国人の母親を見捨てた米兵で、行方を捜しているとでも言えばいい。≫
 北朝鮮による外国人拉致は単純な誘拐事件ではない。対外テロ活動、破壊工作を成り立たせるための一要素である。
 北朝鮮が、工作員の教育係を強いた横田めぐみさん、田口八重子さんをはじめとする拉致被害者を解放しない最大の理由は、彼女たちが顔を知る工作員たちがなお活動を続けているからに他ならない。

 ●被害者解放は米国にも利益
 半島有事の際、破壊工作の最大対象となるのが在日・在韓米軍基地、および出動の際、緊要となる各種インフラ施設である。仮に北が、対外テロ・破壊工作をやめる決断をしたならば、工作員を全て引き揚げ、拉致被害者を解放できるはずである。逆に言えば、拉致被害者の未解放は、テロ・破壊工作をやめるつもりがないことの証左である。
 日本人拉致は、重大な人権侵害、主権侵害であり、日本が主体的に解決すべき問題であること、論を待たない。しかし同時に、この問題の完全解決がない限り、米軍基地へのテロ・破壊工作の脅威も続く。日本がアメリカに、拉致被害者解放に向けた共同対処を呼び掛ける根拠がここにある。