公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.05 (木) 印刷する

首相は3選見据え長い目で改憲を 屋山太郎(政治評論家)

 今年中に憲法改正を行うという安倍晋三首相の願望は山口那津男公明党代表の〝サボタージュ〟によって怪しくなってきたのではないか。
 安倍氏の、9条2項をそのままにして自衛隊の存在を書き加えるとの改正案は、公明党の賛成をにらんで固めたものである。本来なら石破茂氏が言うように9条2項を削って、自衛隊を戦力と定める方がすっきりする。本来の安倍氏の保守思想からすれば、安倍氏がなぜ石破案に反対するのか不思議だが、世論調査では石破案への賛成者は一段と減る。
 立憲民主党や民進党、希望の党の支持者は「2項を削る案はフルスペックの軍隊を狙ったものだ」と反対を強めるだろう。

 ●衆院選敗北で距離取る山口氏
 そこで安倍氏が頼ったのが公明党である。公明党は、代表が前任の太田昭宏氏だった時代は、かなり明確に「加憲なら良い」という路線を打ち出していた。加憲の主体は福祉や教育関係の項目だが、抱き合わせのように9条はそのままに「自衛隊を認めるだけなら良い」との安倍・太田両氏の暗黙の了解があった。
 太田氏は公明党の憲法調査会顧問をしており、安倍首相官邸を気軽に訪ねる仲で風通しが良いが、山口代表とはそれほど打ち解けた仲ではない。
 山口氏は参院議員であるせいか、2017年10月の衆院選で議席を35から29に減らした敗北の責任を強く感じているという。敗因をタカ派の安倍政権に近づきすぎたことだと分析しているようだ。それを修正するために「加憲」の合意を薄める側に寄ってきた。最近、加憲の話が出なくなったばかりか、国会の憲法改正の審議にも不熱心になってきた。

 ●公明票抜きでは危うい国民投票
 財務省の「改ざん問題」で内閣支持率が低下したことで、改憲先延ばしの姿勢はさらに露骨になってきた。防衛省の日報の報告遅れも9条改憲にはマイナス要因だ。
 自民党のシナリオでは、早々に与野党協議を経て夏の臨時国会で発議し、国民投票にかけるというものだった。国民投票は発議してから60日~180日の間に行われる。発議に公明党が加わらないなら、維新と無所属で発議することも不可能ではない。
 しかし、公明党が加わらないと国民投票で過半数を取れないことも起こり得る。創価学会員350万人、選挙での学会票は常時700万票以上ある。学会抜きのバクチを打って過半数を割れば安倍内閣は総辞職になる。かといって、来年は春の統一地方選挙と秋の参院選があるため、公明党は改憲阻止に動くのは必至だ。
 安倍後継が見当たらないのだから、総裁3選の任期末までを展望して、もっと長い目で見る選択肢もある。