公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.03 (火) 印刷する

米韓演習「対北配慮で縮小」はウソ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米韓合同の軍事演習が4月1日から約1カ月の予定で始まった。報道によれば、今回の演習は、4月末に南北首脳会談、5月には米朝首脳会談が控えていることから、北朝鮮を刺激しないよう演習期間を半分に短縮、規模の面でも空母や爆撃機が参加しないことにしたという。だがこれは、軍事を理解していないメディア側の誤った判断である。

 ●もっぱら軍事的観点で判断
 本来、冬季の米韓合同軍事演習は、田畑が凍結する厳冬季を選ぶことが多い。北朝鮮軍の主力が旧ソ連製の重戦車であるため、その方が動きやすいからで、合同演習もそれに対抗するために計画されている。
 ところが今回は、厳冬季のピョンチャン五輪・パラリンピック期間中は軍事演習を見合わせることにしたため演習開始が遅くなり、結果的に期間も2カ月から1カ月に大幅短縮せざるをえなかった。
 参加兵力も演習シナリオに基づいて計画される。昨年は空母や爆撃機が参加したが、過去の例を見ると、冬季の米韓合同軍事演習に空母や爆撃機は必ずしも参加していない。今回の演習シナリオは、逆上陸侵攻であるため、佐世保を母港とする米強襲揚陸艦ワスプ等と搭載のF-35B戦闘機が参加している。

 ●雪解け演出に乗せられた韓国
 韓国メディアでは「首脳会談を意識して北朝鮮を刺激しないように小規模にした」とあたかも雪解けムードを演出するかのような報道が目立つが、筆者の知る限り、米軍幹部からはそのような話は聞いたことがない。
 同盟国であるがゆえに米軍関係者からは表立った韓国批判はないが、内心は米韓合同軍事演習に関する韓国の報道ぶりには苦々しく思っているのではなかろうか。
 筆者が予見するに、今月末の南北首脳会談は親北政権である文在寅氏が出席するため、融和ムードで行われるであろう。しかし、5月の米朝首脳会談については、トランプ側近として強硬派のボルトン、ポンペオ両氏が新たに大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と国務長官に就くことから、極めて厳しい雰囲気で行われると予測される。
 従って金正恩は米朝首脳会談が決裂した場合を見越して保険をかけるために訪中したのであろうし、今後はロシアとも首脳会談を持とうとするであろう。北朝鮮としては、南北朝鮮・中露は和平勢力であり、米国は好戦的だというイメージを国際社会に植え付けたい狙いがある。すでに韓国は、その手にまんまと乗せられてしまっている。