改憲問題は今年が勝負の年だ。自民党内の論議は活発だが、カギを握るのは公明党だろう。衆参両院で「改憲派」が議席数で3分の2を超える政治状況は今をおいてないかもしれない。
自民党単独ではないから、一定の妥協なしでは、国会発議はない。その内容も残念ながらベストなものとは程遠いだろう。平和安保法制の時もそうだったが、極めて不十分なものしかありえないと判断する。「半歩」前進するかどうか。逆に将来に禍根を残すものになるかもしれない。
それぐらいなら改憲をあきらめ、いわゆる解釈改憲を目指すという選択もあるが、それも容易ではない。筆者は、何が何でも、「半歩」を目指すという立場をとる。
この立場に立てば、最大のテーマは公明党をいかに巻き込むかにある。それ以外の政党やグループはプラス・アルファーであっても決め手にはならない。
●蘇る1972年総選挙の悪夢
ところが公明党内は改憲ではどちらかといえば冷めたムードだ。斉藤鉄夫憲法調査会会長代理は、さる3月14日の「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の中央大会で、公明党内は9条改正については両論に分かれていると明言した。
公明党は結党以来、良く言えば状況対応型、悪く言えば世論迎合型の政党だ。確固とした政治理念がない。だから揺れる。
その象徴的出来事は安保政策だ。日米安保条約についてはもともと段階的解消論だったが、1972年12月の総選挙で47議席から29議席に激減して方針が一変。翌年の党大会では安保即時廃棄論に転じている。議席を大幅に減らした背景には、創価学会・公明党批判を不当に封じようとした言論出版妨害事件があったが、なぜか政策を左傾化させた。
今の公明党は、これに似た状況にあるのではないか。昨年の総選挙で与党は過半数を取って喜んだものの、公明党は35議席から29議席へと後退した。29とは1972年総選挙と同じ“魔の議席数”である。
●自民案は公明案そのもの
このショックは大きかったはずだ。自民党と平和安保法制などを推進したため、「平和の党」という旗印に泥が付いたと考えているのではないか。来年は、統一地方選挙と参議院選挙が控えている。ここで泥をかぶるのは御免だという心理は見え見えだ。
しかし公明党はいま、政権与党としての責任をしっかりと果たすべきだ。野党時代なら自分たちの選挙優先でも済むが、政権与党は国家と国民の運命に重い責任を負っている。なにより9条を残して改憲せんとする自民党案は、公明党が主張してきた「加憲」案そのものではないか。
「平和条項に安全保障条項をプラスするのは世界の憲法の常識」と西修・駒澤大学名誉教授は言っている。公明は、「平和の旗」を「平和と安全保障の旗」に補強すべきだ。それに「福祉の党」の旗印も掲げているのだから、その立場からの加憲条項も示すべきではないか。それがいやなら「加憲」の看板を下ろし、政権を去るべきだ。そうでなければ辻褄が合わない。