トランプ米政権は3月23日、中国を知的財産権侵害で世界貿易機関(WTO)に提訴した。同日未明、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限も発動された。
これらは、予想通り各国の反発を招き、批判の矛先は米国に集中している。しかし、知的財産権侵害の問題はもとより、鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限も、本質は中国の過剰生産に端を発している。中国のWTOルール違反など国際ルールを守ろうしない姿勢にこそ問題がある。トランプ政権の一方的な制裁のやり方ばかりが批判されるが、日本と欧州連合(EU)及び米国とが分断されれば、本来の「対中問題」が「対米問題」にすり替わる危険性がある。
●赤字幅は15年間で4倍
米通商代表部(USTR)は、昨年3月に議会に提出した「2017年通商政策の課題および2016年年次報告」の中で、現行の通商システムは「中国を利している」とし、特に2000年以降、以下のような結果をもたらしていると指摘している。
・2000年に3,170億ドルだった物品貿易の赤字は、2016年には6,480億ドルに倍増
・中国との貿易赤字は、2000年の819億ドルから2015年には3,340億ドルと4倍以上に拡大
・米国の家計の平均収入(中央値)は2000年の5万7,790ドルから、2015年には5万6,516ドルに減少
・2000年1月に1,728万4,000人だった製造業の雇用者は、2017年1月には1,234万1,000人へと約500万人減少
・中国がWTOに加盟(2001年)する以前の1984年から2000年までの16年間に、米国の工業生産は約71%増加したが、2000年から2016年での増加は9%未満
このように、USTRは過去16年間、現在の貿易システムは、自由で公正な市場経済の原則に従わない中国が多くの恩恵を受けてきたという認識に立っている。
●知的財産権の無視続く
米国の対中貿易赤字が一向に改善しない中で、USTRは昨年夏にトランプ大統領の指示を受け、中国による知的財産権侵害の実態を調査してきた。中国側も税関総署が昨年11月9日、「今年米国と実施した2回の合同調査で、米国向け輸出品に1560件以上の知的財産権侵害が見つかった」と発表している(ロイター、2017年11月9日)。
トランプ大統領は3月22日、USTRが今年2月28日に議会に提出した「2018年通商政策の課題および2017年年次報告」を受けて、中国の知的財産権侵害を「クロ」と認定。大統領権限で強力な貿易制限をかける「通商法301条」を発動し、中国製品に対して年間最大600億ドル(約6兆3000億円)規模の追加関税を課す大統領令に署名した。
この背景には、中国が推進する「中国製造2025」計画により、今後さらなる知的財産権侵害が進む可能性があることも懸念材料と米国側にはあるようだ。「中国製造2025」は、中国製造業の持続発展とレベルアップを目指す構想で、20日閉幕した中国の国会に当たる全国人民代表大会でも再確認された。
●裏目に出た加盟後押し
トランプ大統領は1月19日、米国が中国のWTO加盟を支持したのは「間違いだった」と述べている。今回の一連の保護主義的政策には問題があるものの、トランプ大統領の中国についての問題認識は的を射ている。
中国は、2001年のWTO加盟後も市場をゆがめる多くの保護主義的な慣行を維持し、基本的に今なお重商主義的戦略を改める兆しはうかがえない。中国を国際社会に取り込めば、やがて中国は責任ある一員としての自覚を持ち、民主化に傾く。そう期待した米国の「関与政策」は見事に裏切られた形だ。
それどころか、中国はその経済パワーにものを言わせ、WTO加盟後はあっという間に主要メンバーの座に就き、発言力を増しつつある。2001年にスタートしたWTOの新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は2015年の第10回閣僚会議を以て実質的に機能不全に陥っている。先進国と途上国の間で立場が両極に乖離し,その溝を埋めることができないためだ。
それを決定的にしたのは、途上国の代表と自称する中国による「デジタル製品の関税撤廃」に関する抵抗であった。議長国は日本であった。日本は米国、EUとも足並みをそろえ、対中戦略を再構築する必要がある。その点でも日本が課せられた責務は大きい。