公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.09 (月) 印刷する

「日報問題」は論点がずれていないか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米シンクタンク「プロジェクト2049」が3月30日、「White Warship and Little Blue Men(白い軍艦と小さな青い人達)」というタイトルの出版物を刊行した。副題は「The Looming “Short Sharp War” in the East China Sea over Senkakus(起こりそうな東シナ海での尖閣を襲う短期・急激戦)」。著者は、かつて米太平洋軍で情報先任幕僚を務めたJames E. Fanell元海軍大佐他1名である。
 要旨は「建国100周年の2049年を盛大に祝うためには、その約20年前の2030年までに尖閣占領という血生臭い仕事を終えておく必要がある。1989年の天安門事件から2008年の北京オリンピックを祝うのに約20年を要したように。そのために人民解放軍は着々と尖閣侵攻の準備を進めている」というものである。

 ●高まる尖閣侵攻の脅威
 人民解放軍の戦略思想に重要な影響を与えている『孫子の兵法』の謀攻篇第三にも「五なれば則ちこれを攻め(身方の軍勢が5倍であれば敵軍を攻撃)」と教えている。2020~30年には国防費、戦闘艦艇数、沿岸警備隊勢力、第4世代戦闘機数などすべての面で中国が日本の5倍となるであることからも、上記見積もりの信憑性は裏付けられる。
 「尖閣には日米安保条約5条が適応されるから心配ない」と考えている人は、1962年のキューバ危機に乗じて人民解放軍がインドに侵攻した事実を想起すべきであろう。1958年の第2次台湾海峡危機も、米軍がレバノンに足を取られているタイミングで起こった。
 出版物は最後に、日本は尖閣諸島に気象観測所や灯台、港湾といった恒久施設を建設すべきであることなど、多くの政策提言を行っている。2020年といえばわずか2年後である。

 ●ピント外れの与野党論議
 こうした重要な時期に立憲民主党の枝野幸男代表は「自衛隊を作り直せ」と主張し、民進党の某議員は「シビリアンコントロール(文民統制)が全く効いていない。小野寺五典防衛大臣は即刻辞任すべきだ」と迫った。だが、そのような軍隊とは、習近平の知らないうちにインド国境を越境・侵犯する人民解放軍のようなものを言う。
 片や、日本の自衛隊は、「探せ!探せ!」と命令を受ければ、本業を投げ打ってでも組織を挙げて10年以上前のイラク日報の捜索を必死に行う。「日報問題」の本質は、憲法上の制約から「戦闘地域には自衛隊を送れない」とされ、それが故に「戦闘」という言葉は日報に記すことができず、諸外国では非公表が当たり前の戦闘詳報を開示可能な「行政文書」としてしまった点にある。議論のピントが根本的にずれている。