公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.23 (月) 印刷する

ワイドショー並みのNYタイムズ紙 冨山泰(国際問題研究者)

 テレビのワイドショーで、コメンテーターと称する出演者が専門外の問題について知ったかぶりの無責任な発言をするのは、視聴者をばかにしている表れであり、日本の情報番組の質の低さを物語る。だが、この安直な番組づくりが米国の世論にまで影響を与えかねないとあっては、笑ってすまされなくなる。

 ●タレント発言を無責任に引用
 米紙ニューヨーク・タイムズは最近の日米首脳会談について、貿易問題や北朝鮮問題でトランプ大統領に重視されなくなった安倍晋三首相が、日本のことも考えてくれるよう頼みに行ったという意地悪なトーンで貫かれた東京発の記事を載せた(4月19日付)。
 その中で同紙は、東京の評論家はトランプ大統領が米朝首脳会談で日本に配慮するのか疑問視していると紹介していたが、その評論家として登場したのが、何と演出家でタレントのテリー伊藤だった。コメンテーターをしているテレビの番組で彼は、「米国が日本のことを考える可能性はゼロ」と断言したらしい。
 テリー伊藤がいかに博識多才であっても、日米関係や米国外交については門外漢のはずだ。そのコメントをいっぱしの外交評論家の発言であるかのように紹介するのは、記事を書いたモトコ・リッチという東京支局長が日本の評論事情に疎いか、安倍首相を揶揄するため意図的に情報操作をしているかの、どちらかであろう。

 ●「拉致」提起取り付けにもけち
 安倍首相がトランプ大統領から、米朝首脳会談で日本人拉致問題を提起する約束を取り付けた外交的成功についても、タイムズの記事は首相の「小さな勝利」と片づけた。拉致被害者の生還という具体的成果に結びつかなければ被害者家族の反発を買いかねないとか、トランプ大統領に拉致問題を提起してもらう見返りに、日本は米国との2国間貿易交渉入りを強いられるとか指摘して、けちをつけている。
 記事の最後には、藤崎一郎元駐米大使が外交における安倍首相の強いリーダーシップをたたえた発言も登場するが、「しかし、法の上に立つ者はいないと国民は考えている」という余計な一言が引用されている。この当たり前の一言は、「モリ・カケ」問題で首相に違法行為があった可能性を示唆したとも受け取れる文脈で紹介されており、藤崎氏も迷惑しているのではあるまいか。