公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.24 (火) 印刷する

くすぶるトランプの対日通商要求 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 4月17、18日に開催された日米首脳会談での通商政策協議の結果について、政府及び経済界は一様に安堵の胸をなで下ろした様子である。鉄鋼・アルミ商品の輸入制限措置では日本を対象国の適用除外とする確約は得られなかったが、2国間の自由貿易協定(FTA)交渉入りについては言質を与えなかった。新たな市場開放や為替問題への言及もなかった。
 しかし、トランプ大統領の「結果の平等」を求める「相互主義」には変化がなく、多国間貿易協定より2国間貿易協定を重視する姿勢も変わっていない。鉄鋼・アルミ問題についても、中間選挙に向けて、今後、対日要求が強まることは十分予想される。

 ●「新たな協議」は機能するか
 日米首脳会談では、日本が提案した新たな協議の開始で合意した。茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表との間で「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」を開始し、これを麻生太郎副総理とペンス副大統領の下で行われている日米経済対話に報告させることとした。
 FTAの前段の協議ではないとしているが、日米経済対話では使われていない「相互的」という用語が明記されたのは気になるところだ。
 日米経済対話は、2017年2月の日米首脳会談で、「日米経済関係を更に大きく飛躍させ、日米両国、アジア太平洋地域、ひいては世界の力強い経済成長をリードしていくために対話と協力を更に深めていくこと」を目的として立ち上げが決まった。
 だが、実質的な成果といえるのは、昨年10月に日本産の柿及びアイダホ産馬鈴薯に対する双方の輸入制限が解除され、米国メーカーの自動車輸出拡大に向けた騒音及び排出ガス試験に関する手続きの合理化が確認された程度である。
 新たな協議枠の設置については、日米経済対話に対するトランプ氏の強い不満を反映したもので、FTA論議を本格化させる第一歩だとする見方も米国側にはある。FTAの回避策と位置づける日本側とは、まさに同床異夢の関係だ。
中間選挙が近づくにつれ、日米の食い違いが顕在化することは避けがたいだろう。日本としては環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、米国抜きのTPP11発効を急ぎ、自由な通商ルールの拡大を図る等の対抗戦略が必要である。

 ●メガFTAでTPP復帰促せ
 首脳会談終了後の共同記者会見で、トランプ大統領は、「米国が目指しているのは、自由、公平かつ相互的な貿易だ。この『相互的』という言葉が非常に重要だ。両国を利する2国間貿易協定も目指している」と発言。さらに「貿易でも連携し、不均衡の問題に関しては、何らかの手段を講じるつもりだ。正直に言えば、何年も前に何らかの対策を講じるべきだった」と締め括っている。
 日米首脳会談の直後にワシントンで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、米国の輸入制限を念頭に保護主義的な政策を懸念する声が相次いだが、国内産業の保護を重視する米国との議論は平行線をたどった。ムニューシン米財務長官は「(貿易赤字など)世界的な不均衡が狭まる兆候がない」と現状に不満を表明した。
 当面、トランプ氏に政策転換を期待することは難しいが、日本としては、中国の知的財産権侵害や世界貿易機関(WTO)改革など、米国と共同歩調をとれる問題は少なくない。TPP11の発効をテコに更なるメガFTAの実現を目指すことも重要だ。
 猫の目のように変わるトランプ氏の発言に一喜一憂することなく、米国企業・消費者の理解を通じてトランプ政権にTPP復帰を促していく長期的な視点が求められている。