トランプ米大統領の暴走が止まらない。5月23日には、ロス商務長官に通商拡大法232条(国防条項)に基づき、乗用車やトラックなどの車両や関連部品の輸入が国内の自動車産業を侵害し、安全保障を脅かしている可能性を指摘して調査するよう指示した。鉄鋼・アルミニウム輸入制限と同様の手段を自動車にも適用することを目論んでいる。米メディアによると、トランプ大統領は現在2.5%の乗用車関税に最大25%の上乗せの検討を指示しているという。
自由貿易体制における喫緊の課題は、中国の国家資本主義を、どのように自由で、公正な国際貿易体制に組み入れるかにある。中国経済はそれだけ世界経済への影響力を拡大させている。しかし、トランプ大統領の「米国第一主義」は、同盟国との協調体制を棄損し、自由貿易体制の要である世界貿易機関(WTO)を弱体化させかねない。それは結果的に中国の一層の増長を許すことになる。
●何のための追加関税か
トランプ大統領の関税政策の対象は、同盟国であるか否かを問わない。中国政府は、輸入自動車の関税を7月1日から15%に引き下げると発表したが、これまでは乗用車などが25%、トラックなどが20%であった。自動車部品についても8~25%だった関税を一律6%まで引き下げる。
自動車関税は現在、米国が2.5%(大型車25%)、EUは10%であるのに対して、日本の関税率は既にゼロである。少なくとも日本が制裁対象にされる謂れはない。
商務省が調査し、270日以内にトランプ氏へ関税適用の是非を報告するが、実際に追加関税が発動されれば世界貿易への影響は甚大である。
日本は米国に年168万台(2017年実績)の四輪車を出荷し、自動車・関連部品の輸出額は560億ドルと全体の4割を占める。米国はドイツからも300億ドル強を輸入しており、安全保障をめぐる「貿易戦争」が同盟関係にある日本及び欧州諸国に一気に拡大する恐れがある。
こうした一方的な輸入関税政策は、日本及び世界経済に与える影響もさることながら、合理的な根拠の希薄な「安全保障への脅威」を理由に掲げることは、同盟国としての信頼関係を損なう懸念を引き起こす。トルーマン大統領以来、欧州とアジアに強い民主主義の同盟国を作ることで、強化してきた米国の経済・安保上の利益を失う危険性があるだけでなく、延いては、それが同盟国の利益も脅かすことになる。
●WTO体制維持へ改革を
トランプ政権の「米国第一主義」は、政治経済両面で配慮し築いてきたWTOという多国間調整の仕組を軽視し、むしろこれらの仕組みは米国の主権を脅かし、米国に不利な結果をもたらすものとして、2国間の話し合いで貿易赤字を縮小しようとしている。
その結果、トランプ政権の通商政策は、冷戦における勝利を西側にもたらした同盟関係や国際機関を基盤とする秩序を脅かす危険性を高めている。
米国抜きのTPP11協定(CPTPP=包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)が成立した背景には、同盟国や友好国ですら、そうしたトランプ政権に対する不信があり、リスクヘッジだったことも否定できない。
さらに、一部のアジアの国は、中国と一定の協調関係を結ぶことで、リスクヘッジを図ろうとする動きが現実化しており、今後の中国の勢力拡大を容易にする。
かつて、各国が、WTO(旧GATT)のウルグアイラウンドでルールに基づく国際貿易体制の構築を目指したのは、米国が1980年代に通商法301条(貿易相手国の不公正な取引上の慣行に対して当該国と協議することを義務づけ、解決しない場合の制裁措置)を発動したことが理由であった。外交専門誌フォーリン・アフェアーズ(2017年4月17日付)で、ダートマス大学のダグラス・アーウィン教授がそう指摘している。保護主義的政策を掲げるトランプ政権と国家独占資本主義の中国を反面教師として、日本にはWTOの改革を各国に働きかけ、その実現を主導することが求められている。