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2018.06.01 (金) 印刷する

トランプ大統領の中止表明は正しかった—拉致被害者救出にはこの道しかない(米朝首脳会談ウォッチ①) 西岡力(麗澤大学客員教授・モラロジー研究所歴史研究室長)

 トランプ米大統領が5月24日、金正恩に「現時点では会談を行うのは不適切だ」とする書簡を送り、6月12日に予定されていた米朝首脳会談を拒否することを通告した。一方で、会談の下交渉は続いており、会談の開催についてはなお予断を許さない状況が続いている。
 同書簡でトランプ大統領は、会談拒否の理由として、北朝鮮が最近、米国に対して「猛烈な怒りと露骨な敵意を示してきた」と書いた。
 これは直接的には、同日付けで北朝鮮外務省の崔善姫次官が出した談話を指すものだ。崔次官は、ペンス米副大統領が「米国が求めるのは完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化だ」と発言したことに対して、「無知蒙昧な言葉」と非難し「米国がわれわれと会談場で会うか、核対核の対決場で会うかは全的に、米国の決心と行動いかんにかかっている」と断言した。
 トランプ大統領は金正恩に対し、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」をする意思がないのなら会う必要がないと明言したのだった。

 ●想定された3つの可能性
 すべての拉致被害者の救出を求める私たちの立場からすると、このトランプ書簡は歓迎、支持できるものだ。米朝首脳会談について私たちは3つの可能性を想定していた。
 第1は、米国が「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」要求を事実上放棄して、北朝鮮を核保有国と認める中途半端な譲歩をすることだ。たとえば、米本土まで届くICBMなどの即時廃棄と核の段階的廃棄で合意してしまうという可能性が考えられた。その場合、拉致問題は棚上げされ、日本に対北支援をするようにという圧力がかかるだろう。
 第2は、米国が求める「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」を金正恩が受け入れることだ。米国は平和条約締結、国交正常化などという見返りを与えるが、経済支援を行う考えはない。大規模な経済支援は日本に求めよと金正恩に伝えるはずだ。安倍晋三総理はこの間、拉致と核ミサイル問題が解決するなら、平壌宣言にもとづき日朝国交正常化を行い、その後に経済協力を行えると言明している。その場合、米朝で核・ミサイル問題が解決した後、日朝間で拉致問題の解決が実現することが必要条件となる。

 ●最悪の事態は回避できた
 第3は、米朝協議が決裂する可能性だ。米朝首脳会談自体が中止になるか、あるいは会談は持たれても物別れに終わるということだ。そうなれば、昨年10月以降の軍事緊張の高揚が再現する。戦略爆撃機が北朝鮮の近くを飛び回り、空母が3隻以上集結し、原潜もやってくるだろう。いつでも金正恩を爆殺できる準備が整う。
 今回のトランプ書簡は第3の可能性の方向を示すもので、第1の可能性の「中途半端な譲歩」をトランプ大統領が明確に拒否したことを意味する。これは、拉致問題の観点からすると米国が拉致を棚上げにするという最悪の事態は回避できたといっていい。私たちにとって決して、悪くない状況だ。当面は軍事緊張が高まるだろうが、拉致問題と核・ミサイル問題が解決しない限り、圧力を最大限にかけ続けるという、昨年来、日米が主導してきた戦略をぶれずに続けるしかない。独裁者に全拉致被害者を帰すという選択をさせるためには、強い圧力以外にない。私たちはぶれずにこの道を行く。

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