6月12日にシンガポールで開くとしている米朝首脳会談をめぐり、両国の激しい駆け引きが続いている。5月24日、トランプ大統領が中止を宣言する書簡を出してからは、主導権は米国が握っている。
あわてた金正恩は翌25日に金桂冠第1外務次官名で談話を出し、会談を止めないでくれとトランプ大統領に泣きついた。26日には金正恩側から呼びかけて2度目の南北首脳会談を急遽持って韓国の文在寅大統領に助けを求めた。
●わずか9日で態度を一変
金桂冠談話では、それまで繰り返し米国が強硬姿勢を維持するなら会談中止もあり得ると脅していた姿勢を一変した。同じ金桂冠がわずか9日前の5月16日に出した談話では、ボルトン補佐官を「これまで朝米対話が行われるたびにボルトンのような者のため紆余曲折を経なければならなかった」などと誹謗し「トランプ政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われわれはそのような対話にこれ以上興味を持たず、近づく朝米首脳会談に応じるかを再考慮するしかないであろう」と会談打ち切りを示唆した。
ところが同じ金桂冠が25日に出した談話では、トランプ大統領になんとか首脳会談に応じてくれるように次のように懇願した。彼らのあわてぶりがよく分かるので少し詳しく引用しよう(拙訳から引用)。
まず、談話冒頭「金桂冠は25日委任により次のような談話を発表した。」という但し書きがついていた。つまり、金正恩の委任を受けて談話を出したという意味で、金正恩があわてていることを示す。16日談話にはそのような但し書きはなかった。
金桂冠は米朝首脳会談を中止するとしたトランプ大統領の書簡についてし、「朝鮮半島はもちろん世界の平和と安定を望む人類の願いに符合しない決定」「私たちとしては思いがけないことであり、非常に遺憾だ」と慎重な物言いで反対する。9日前に金桂冠自身が会談中止を示唆していたことなどまったく忘れたかのような懇願調の語り口だ。
●相手を持ち上げて懇願
その上で、金正恩政権はトランプ大統領を高く評価してきたとして、次のように露骨に媚びた。
「私たちはトランプ大統領が過去の時期のどの大統領も下すことが出来なかった勇断を下して、首脳面会という重大事を実現させるために努力したことに対して、依然として内心高く評価してきた」「わが国の国務委員会委員長におかれてもトランプ大統領と会えば良い開始をすることができるだろうとおっしゃって、そのための準備に全力を傾けてこられた」
そして、トランプ大統領に対して中止決定を翻意してくれと繰り返し懇願するのだ。「私たちは常におおらかで開かれた心で米国側に時間と機会を与える用意がある」「私たちはいつでもどんな方式でも、向かい合って座り問題を解決していく用意があることを米国側に今一度明らかにする」。
これを受けてトランプ大統領は中止決定をとりあえず保留し、6月12日の首脳会談に対する準備作業を再開した。その後も突然の南北首脳会談、シンガポール・板門店での二元的な実務協議、金英哲統一戦線部長の訪米とめまぐるしい動きが続いている。
●主導権は日米側にある
首脳会談はどうしてもやりたいと思っている側が、中止しても良いと思っている側より弱い立場に立つ。北朝鮮はこれまで首脳会談の日程を決めてから揺さぶりをかけ、一度決めた日程を中止したくないという外交官心理を利用して優位な立場に立ってきた。準備作業過程で要求をつり上げ、実務協議を突然キャンセルし、高官談話や労働新聞・朝鮮中央通信の論説などを使って相手を激しく非難する-などが彼らの常套手段だった。
ところが今回、トランプ大統領が中止するという表明をするや、慌てふためいて会談実現を懇願してきた。ここから分かることはより困っているのは金正恩だという事実だ。昨年、安倍晋三首相とトランプ大統領がリーダーシップをとって進めてきた最大限に圧力を高めて北朝鮮の政策を変えさせるという戦略は成功しつつある。具体的には、米軍による軍事圧力と経済封鎖に近い厳しい制裁が効果を上げ、金正恩がトランプ大統領との会談を懇願するところまで来たのだ。
そのことを踏まえ、これからも繰り返されるであろう北朝鮮の様々な揺さぶりやごまかしを排除して、すべての大量破壊兵器(核、ミサイル、生物化学兵器)の検証可能で不可逆的な廃棄とすべての拉致被害者の即時一括帰国を求め続けていくべきだ。主導権は日米側にある。
トランプ大統領の中止表明は正しかった—拉致被害者救出にはこの道しかない(米朝首脳会談ウォッチ①)
北朝鮮の揺さぶり一蹴したトランプ大統領、圧力は効いている(米朝首脳会談ウォッチ②)
金正恩に核廃棄の意思はあるのか—「半島非核化」とは韓米同盟の解体(米朝首脳会談ウォッチ③)