公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.08.01 (水) 印刷する

官僚不祥事多発で思う「割れ窓理論」 原英史(政策工房代表取締役)

 官僚の不祥事が続発している。文部科学省の局長級幹部2名が相次いで収賄容疑で逮捕された。この半年ほどを振り返っても、財務省の組織的な公文書改ざんや事務次官のセクハラ、外務省でも課長のセクハラなど、群発地震状態だ。しかも、収賄、セクハラと、昭和の時代かと思うような事案だ。平成も終わりを迎えようという年に嘆かわしい。
 官僚機構そのものが劣化しているのかどうかは、わからない。昭和から平成に替わった頃には大蔵省(現財務省)のノーパンしゃぶしゃぶ問題があったし、その後もときどき、こうした事件は起きる。
 一方で、官僚の中には、こんな不祥事とおよそ無縁で、志と倫理観をもって仕事に取り組む者も数多い。OBの一人としても官僚機構全体が腐っているかのような見方は残念だし、短絡的だとも思う。
 ただ、少なくとも言えるのは、今回発覚した重大な不祥事の周辺には、些末な問題として見過ごされてきた事案が無数にあるだろうということだ。小さな違法事案や、違法かどうかは微妙だが不適切な事案などだ。重大事案は、無数の些末な事案で麻痺する中で生じがちだ。

 ●自浄作用に委ねず、外部の目入れよ
 犯罪の世界で唱えられる「割れ窓理論」によれば、軽微な犯罪も放置すると凶悪犯罪の温床になる。1990年代のニューヨーク市では、当時のジュリアーニ市長がまず、落書きなどの軽犯罪を徹底的に取締り、これが凶悪犯罪の激減につながったとされる。
 一連の不祥事を受け再発防止に取り組むなら、まず、些末な問題とされてきた事案を徹底的に洗い、コンプライアンス遵守に取り組むことだ。
 官僚機構の特殊性にも留意しておく必要がある。不祥事は、官民問わず、どんな組織でも起きる。ただ、異なるのは、民間企業では幹部や従業員が不祥事を起こせば、投資家や顧客から厳しい目を向けられ、経営を左右する問題になりかねないことだ。役員なら株主代表訴訟の対象にもなる。
 米国の配車サービス大手「ウーバー・テクノロジーズ」でも幹部のセクハラ問題が起きたが、投資家のプレッシャーや不買運動などを受け、創業者であるCEOが辞任に追い込まれた。上場企業の多くで、ときに過剰と思われるほどコンプライアンスの徹底やセクハラ防止が図られるのは、こうしたリスクの回避にある。
 他方、官僚機構の場合、どれだけ不祥事が起き、国民の不信を招いても、倒産はしない。財務省の不祥事に関し、「こんな国税庁長官がいるなら税金を払う気がしない」との声は高まったが、現実に税金を払わなければ強制徴収されるだけだ。結果として、官僚機構ではこうした問題が起きても、対応は生ぬるく、内部の緊張感も乏しくなりがちだ。
 だから、組織内部の自浄作用だけに委ねず、外部の目を入れ、不祥事への対応・防止に取り組むことが重要となる。

 ●野党とマスコミは監視機能の発揮を
 その観点から、大臣はじめ政府内の政治家の役割は重大だ。もっとリーダーシップを発揮しなければならない。
 同時に、野党とマスコミの役割も大きい。些末な問題事案の洗い出しなど、政府の監視機能を果たすべきだ。一連の不祥事を「政権長期化による緩み」などと解説する向きもあるが、問題は、政権の長さではない。野党とマスコミが十分に緊張感を与えられていないことだ。
 残念ながら、「監視」の方向がずれていると感じることも多い。この通常国会でもまた、加計問題がさんざん取り上げられた。この件では、昨年夏に私も国会に参考人として呼ばれたが、政策決定の事実関係は説明済みだ。
 今年は新たに、官邸で首相秘書官が関係者と面談した云々が問題にされたが、政策決定の本筋とは関係がない。何の意味があるのかさっぱりわからなかった。
 野党・マスコミは政府の監視機能を果たしてほしい。